とはいえ、目標のためにレスキュー隊と対立してまで危険な場所に立ち入るのは、さすがに……。2人の医師も通常の災害現場ではありえないと語る。

「災害現場で働く医師は、必ず二次災害が起こらないように、現場や周囲の安全確認を行ってから、各種の処置や治療を開始します。例えば、高速道路での多重事故などでは、周囲を確認せず、その場で処置をしてしまうと後続車両に巻き込まれてしまって、より多くの犠牲者を出しかねない」(宮田医師)

リアルでも「心停止は珍しくない」

 ドラマに詳しいテレビ解説者の木村隆志さんは、こういった対立の演出は“日曜劇場あるある”だという。

「日曜劇場は『半沢直樹』などのように、わかりやすい“悪”が出てきて、対立で煽り、それをベースに展開するストーリーが多い枠です。今回は医療従事者にエールを送る意味があるので”悪人”はほとんどいませんが、救命だけでなく対立も描くことで、濃厚な人間ドラマでも視聴者を引きつけたいんでしょう」

TBS系で放送中の『TOKYO MER』(番組公式HPより)
TBS系で放送中の『TOKYO MER』(番組公式HPより)
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 対立の演出で印象的なのは、レスキューにもチームの医師にも反対されながら行う、救出と同時進行の手術。

 前出の宮田医師は、

「周囲の安全確認が十分に行われた状況であれば、通常では考えられない場合でも救命のため、その場で緊急手術を行うこともあります」

 と話すが、川原医師は、

「ありえないです。安全な場所に移動させてから、手術というよりは“今この方の命を救うために必要な処置”をすることはありますが、一般的にイメージするような手術は難しいと思います」

 と、状況により難しい判断になるのか、同じ救急医でも意見が割れた。

 では、物語の佳境に必ずある、心停止のシーンはどうか。そもそも、心停止はこんなに発生するの?

「病院に搬送されてくる一般的な心停止の方は、私が勤務している病院でも夜勤をしているとだいたい1日に1人は運ばれて来ます。なので、災害の現場で心停止の方がいるのは珍しいことではないでしょう」(川原医師)

 心停止で行われるのが心臓マッサージ。『MER』では医師や看護師が必死に名前を呼びかけるのが印象的だが、実際の災害現場では少し違うという。