誰かを笑顔にしたい気持ち
そんなプリティ太田は、2、3か月に1回できればいい方というこびとプロレスのために、定職にはつかずアルバイトで生計を立てている。
「いつプロレスの試合ができるかわからない。その機会を逃したくないんです! もしかしたらそのプロレスを見てファンが増えるかもしれない。やりたいと思う若い世代が入ってきてくれるかもしれない。40代なので将来に不安もありますが、それでも会場での観客の笑顔や声援を見たらまだ頑張りたい! って思ってしまうんですよね(笑)」
本当はプロレス一本で生計を立てていきたいのが本音。しかし、突然飛び込んでくる女子プロレスの前座、地域のイベントやメディア出演を最優先にしたいと思い、融通のきくアルバイトを選んだ。
試合の予定が入れば、対戦相手となるブッタマンと入念な打ち合わせしたいところだが、専用の練習用のリングがないため、身体作りしかできないという。
「こびとプロレスは“お笑い要素”がかなり強いので、対戦前に構成を組んで、どうやったら面白く見えるか、本当はもっとしっかり考えたいんです。でも現状はリングがないので細かい構成が組めず観客に見えにくくなってしまうことも……。
それでも、“障がい者を笑いものにするな”という概念を取っ払って僕たちのエンターテイメントを楽しんでもらうためには、どうしたらいいのか日々考えています。
笑っていいのかわからないみたいな空気になるよりも、むしろ笑ってくれって思ってるんですよ」
そんな彼らの背中を押すようにプロレスラーの蝶野正洋やダンプ松本など名だたるレスラーが活動を支援している。
「蝶野さんはまだ一度も面識はないんですが、2017年に『探偵ナイトスクープ』(朝日放送テレビ)に僕が出演した際、スタジオゲストとしてご覧になっていたようで、最近の僕の発信などにもSNSで反応してくれました。ダンプさんとは現在やっている『MAZEKOZEアイランドツアー』の繋がりもあって同じリングの上で会場を一緒に盛り上げてくれます」
『MAZEKOZEアイランドツアー』とは、多様な人々の存在を知り、そして理解してお互いを認め合う共生社会の現実をテーマにしたイベント。女優の東ちづるが総指揮を取り、東京パラリンピックの公式文化プログラムとしても注目されている。
こびとプロレスが存続の危機にありながらも、プリティ太田は明るく前向きでいたいと語る。意欲的になるのは自身の障がいを個性と捉え、そして純粋にプロレスが好きだという気持ち、さらには人を喜ばせたいというサービス精神からなるもの。
「こびとプロレスはエンターテイメントなので、野次も声援も僕たちの糧。最後の一人になってしまうかもしれないと思うことよりも次はどんなお笑いを届けようか、こんな構成は面白いかなって考えるようにしてます。根っからのプロレス好きなだけかもしれないですけどね(笑)。誰かを笑顔にしたいって気持ちは小人症の僕でも一緒なんですよ」
リングの上で戦うプリティ太田の目は、熱い気持ちに満ち溢れていた。