最終的な施設の判断は、「家族には知らせない」。身寄りのない加藤さんには、本人への厳重注意を行ったが、中山さんについては本人が自覚しておらず、その後も加藤さんと親しく接していたため、わざわざ事を荒立てるようなことを夫に報告しても何にもならない。

 かえって、高齢な中山さんの夫を傷つけ、心理的負担を与えることになるだけだからだ。もちろん、今後同じようなことがないよう注意は払うことになったものの、施設の職員たちの胸の内に収めるという結論に至った。

どこまで立ち入るべきか……施設職員の葛藤

 結城さんは、「性別を問わず、人は高齢になっても性欲がなくなるわけではありません。ご家族にとってはあまり認めたくない、知りたくないことかもしれませんが、現実として、性にまつわるトラブルは高齢者施設では日常的に起こっているのです」と話す。

「どう対応すべきか、施設職員は本当に困っています。近年、特養などの施設ではプライバシーへの配慮で個室化が進んでいます。男性の入所者が、自室で陰部を出して自慰行為をしているところを女性職員が目撃するという事例もあります。

 また、介護施設は鍵をかけていないので、夜間に別の部屋に侵入するのを職員が防ぐのはかなり難しい。さらに、性的なことはきわめてプライベートなことなので、この問題を誰にどこまで報告すべきか、という葛藤もあります。

 実際、表沙汰にしたところで誰の得にもならないことも多い。そのため施設職員が個人で抱え込んで苦悩することも珍しくありません」

※写真はイメージです
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 確かに、高齢者同士が本当にお互いに想いあい、合意の上で行われている行為だとしたら、施設内でのこととはいえ職員は立ち入るべきことではないかもしれない。お互いの伴侶が健在な場合はまた話が違ってくるが、それとて、一職員が踏み込んでいい問題なのかどうか。判断は容易ではないだろう。

 実際、有料老人ホームで、お互いに別の夫婦として入居していた高齢の男性と女性が、物置のような場所で性行為をしていたところを職員が目撃した例もある。

 有料老人ホームは介護施設と違い、高齢者住宅といったプライベート空間だということもあり、発見した職員は見てみぬふりをし、職員同士で情報共有をしただけで、家族には報告せずに終わったという。

認知症の男女が部屋の中で……

 さらに対応が深刻なケースがある。「認知症患者同士の性トラブル」だ。ある介護施設の施設長を務める金子浩さん(仮名)が、匿名を条件に話を聞かせてくれた。

 ある日の夜8時ごろ、ひとりで施設内を見回りしていた女性職員が、大塚さん(70代女性、仮名)の部屋をのぞいたところ、個室の室内に別の人影が……。見ると、同じ施設に入所している佐々木さん(70代男性、仮名)がズボンをおろし、自分の股間を大塚さんの口に近づけていたのだ。