謎の老人客がやがて師匠に
次なる野望は、「全国制覇」「100店舗達成」とした。
フランチャイズの募集をかけると、「年商1億円」の実績はPR効果抜群だったのだろう、問い合わせが相次ぎ、1年で100店舗を達成した。年商は10億円になった。
100店舗達成パーティーには、デビュー間もない歌手・水森かおりさんをゲストに呼んだという。
穴のあいた軽トラからいきなりベンツになり、身に着けるものも、ジーンズ・タンクトップからアルマーニのスーツ、スリッパから革靴に変わったのもそのころである。
ただ、急成長しすぎると組織に歪みが出るのは世の常。その流れを修正してくれる人が現れた。
常連客で当時70代のXさんだ。あとでわかることだが、彼は地元の実業家で、各方面に太い人脈を持つ、泣く子も黙る存在だったのだ。
しかし店にふらりと現れたときの印象は、ブランドものの服や時計を身に着けるわけでもない、普通のおじいさんだった。だが、ただ者ではないと思ったのは、100店舗になったと喜んでいるときに、堀之内さんに放った一言。
「(フランチャイズの店)うまくいってねーよ。そうに決まっている。お前、小さいころ、砂で川を作って、水を流したことあるだろ。最初はきれいに流れるけど、何回もやると流れなくなっただろ。砂山をしっかりコンクリートで固めるのがお前の仕事だよ」
まさかと思って全国の店舗をチェックすると、図星だった。以降店に足しげく通い、営業指導をし、また売り上げで店舗同士を競わせながら優秀店を表彰するというモチベーションアップ法も導入した。
堀之内さんは、社員を自宅に呼ぶこともあるという。取締役の安西範泰さん(50)によると、社長直々に料理を作ってくれるのだという。
「大勢の社員を呼んでバーベキューをやるときは、社長が肉を焼いてくださることもありますが、少人数の場合は創作料理みたいな、手によりをかけた料理をいただけるんです。そうしたことで仕事へのやる気は確実に上がります」
普段でも午前中、朝ご飯代わりにマクドナルドのハンバーガーを若い独身社員に振る舞ったり、焼き芋を自分で焼いてすすめたりする。会社や店の中に、和気藹々(あいあい)とした雰囲気が流れるという。
日本テレビの『スーパーテレビ』で密着取材を受け、視聴率20%を超えたときも、「見てくれましたか?」と有頂天になる堀之内さんの姿を見て、Xさんはこう言った。
「お前、豚になるなよ、猿でいような」
意味がわからずポカンとしている堀之内さんに、Xさんが説明してくれた。
「豚は人の力で木に登らせてもらっても自分で降りてこられない。でも猿は自分の力で降りてこられる。お前は猿のようになれということだ」
テレビで有名になったからといって、舞い上がるなということを言いたかったのだ。
「はっきり言ってくれないことが多いんです。いつも禅問答みたい。でもわかれば、すごく深いことだなと。私にとっては“師匠”です」
Xさんの助言のおかげもあり、順調に成長を遂げる。最盛期には350店舗、年商120億円を稼ぎ出す堀之内さんは、メディアにたびたび登場する有名人になっていく。