寺社がピンチ、お賽銭の入金問題
都市銀行の多くが硬貨の取り扱いに手数料を徴収するようになってから、無料で扱ってもらえるゆうちょ銀行で小銭の扱いが増えたことは想像できる。しかし、この改定に大きな影響を受けている人たちもいる。硬貨での“入金”が多い寺社だ。
「参拝者からいただくお賽銭です。お賽銭は仏閣や神社の修繕費に使われることが多いのですが、お賽銭としていただいた硬貨はいったん銀行に預けています」
と話すのは、長野県塩尻市にある浄土宗善立寺の副住職で、寺院ITアドバイザーとしても活動している、小路竜嗣さん。
「修繕をお願いする業者さんに、小銭でお支払いすることはできませんよね。汚れている硬貨を洗ったり、ほかのものが混ざっていないかを確かめてから銀行に持っていってました。宗教法人の口座に入れて、そこから修繕費に使っていたのですが……」
今、1円玉を500枚ゆうちょ銀行に持っていくと、手数料が825円かかる。預金どころか、325円を支払わなくてはいけなくなるのだ。
お賽銭のように5円や10円といった少額の硬貨が多いと、預金額以上の手数料を支払わなければならない。例えば、預金額の何%と設定すれば預金額と手数料の逆転現象は起きなかった。なぜ枚数で手数料を決めたのか? ゆうちょ銀行の広報は、
「金額というよりも、硬貨を数える件数自体にコストがかかっているので、枚数ということで設定しております」
とのこと。小路さんは「もう、1円玉預けないでくださいということなのか」とため息交じりにこう続ける。
「すべての寺社がお賽銭を収入のメインにしているわけではありません。ただ寺社によっては、初詣のお賽銭が1年の運営費になっていることもあります。そういう寺社にとって、今回のゆうちょさんに合わせて銀行も手数料を上げてくると経営的に厳しいものがあると思います」
こうした銀行の動きに対して、『電子賽銭』というキャッシュレス決済をお賽銭に利用しようとする寺社も現れた。だが─。
「オンライン決済でのお賽銭というのは、制度上難しい部分があるんです。みなさんがよくご存じの『PayPay』は、サービスや商品の提供がない寄付行為での使用は規約で禁止されているんです」(小路さん)
このほかにも、信教の自由の問題が関わってくるという。
「例えば、縁結びで有名な神社などで高額のお賽銭を電子決済したとします。その購買情報が決済事業者に残るわけです。そうなると“この人は縁を求めている”と、広告情報として利用されてしまうかもしれない。
これは以前、京都仏教会という京都のお寺さんが集まった会議でもキャッシュレスの問題点として挙げられていました」(小路さん)