目次
Page 1
ー 4年間の服役経験
Page 2
ー 前科者に厳しくしない理由
Page 3
ー 少女を性虐待から守りたい!
Page 4
ー 性被害の末、母に捨てられて
Page 5
ー 覚醒剤、レイプ、自殺未遂
Page 6
ー 前科者への冷たい仕打ち
Page 7
ー 息子が語る、母への想い
Page 8
ー 「黒い世界には戻れない」

 父親はヤクザの組長、母親はストリッパー。家庭に居場所はなかった。13歳で覚醒剤に溺れ、どん底まで転落。刑務所を出た後、ほとんど一緒に暮らせなかった息子のひと言で更生を誓い、“支援者”としての道を歩み始める。「命さえあれば、いくらでもやり直せる」 と証明するために―。

4年間の服役経験

「昨日の夜から入居者さんが帰ってこなくて、電源は切れたまま、LINEも既読にならない。一睡もできなかったんですよ……」

 取材の日、竹田淳子さん(51)は、スマホの画面をしきりに気にしながら現れた。

 竹田さんは自立準備ホームの寮母を務めている。刑務所や少年院から出所後、帰る家のない人々が自立できるまで一時的に住むことができる民間の施設だ。

 現在の入居者は外国籍の未成年の少女。薬物や窃盗の罪で、少年院を経て、保護観察中だという。

「ウチに来て3か月になりますが、無断外泊は今回で2回目。今日は保護司さんとの面談が入っていたのにドタキャン。さっき慌てて電話で謝り倒したところです。これ以上、保護観察所の心象を悪くしたら、ひとり暮らしもできなくなってしまうから」

 少年院に入所中、高卒認定試験に挑戦し、合格。出所後は、竹田さんの目の前で昔の仲間たちの連絡先をみずから消去してみせた。

 そんな少女を信じ、竹田さんは知人の運営するカフェでアルバイトができるよう頼み込んだ。勤務態度はまじめ。カフェで働きながらお金を地道に貯めていた。海外のラッパーに憧れ、ダンスを習いたいと夢も語っていた。

「私にとっては、まだ3か月。彼女にとってはもう3か月頑張った……なんですよね」

 寂しそうにつぶやく竹田さん。ひと晩中、心配していたのだろう。疲労が滲む表情で力なく笑った。

◆   ◆   ◆

 2019年8月、竹田さんは一般社団法人『生き直し』が運営する自立準備ホームの女性寮の寮母に立候補した。

 出所者のほか、執行猶予や罰金刑も含む有罪判決を受けた人、不起訴などで釈放され帰住先がない人も対象にしている。

 個々のケースにもよるが、平均して2~3か月以内に仕事を見つけるなど自立の準備をサポート。1人あたり1日1000円の食費が法務省から支給されるという。

竹田さんが寮母を務める自立準備ホームでは、個室を用意。栄養を考えた食事を提供している 
竹田さんが寮母を務める自立準備ホームでは、個室を用意。栄養を考えた食事を提供している 

 これまで埼玉県にある竹田さんのホームには6人が出入りしてきた。

「最初の入居者は、統合失調症の40代の女性でした。ほかの施設で断られて行くところがなく、クリスマスイブの夕方にやってきました。もしウチが断っていたら、ホームレスになるしか……」

 それがどれだけ心細いことか、身をもって知っていたからこそ、受け入れようと決めた。だが、年明けにホームで暴れ、警察に通報せざるをえなかったという。

 2人目は、傷害事件を起こして保護観察中の20代女性。ホームで包丁を持ち出し、事件を起こす危険を感じて、またしても警察に通報した。

 3人目は、薬物所持で執行猶予中の20代の女性。売春で生活費を稼いできたため、働いた経験はなかった。

「身体のあちこちに刺青があり、付き合う男はホストか半グレばかり。麻雀店でバイトしても“かったるいから”とすぐ辞めてしまいました」

 妊娠して寮を卒業したが、今も彼氏とケンカをするたび連絡が来る。ホームを出た後も、“真の自立”を願い、見守り続けるケースもある。

「10人に1人、生き直しできればいいほうです。女性は特に厳しいですね。金銭面や精神面で男性に依存していた人の場合、出所後にゼロから生活力をつける必要があります。その弱さに付け込んで再び犯罪の道に引きずられ、搾取される標的にもなりやすい。何度も騙されて“やっぱり私は幸せになれない”と自己否定感が強くなると、“何も考えたくない” “刑務所の中のほうがラクだ”と思ってしまうんです。私もそうでした」

 竹田さん自身も詐欺未遂と覚醒剤取締法違反で34歳から4年間、刑務所に服役した経験を持つ。

「私は出所後にアパートの部屋を借りることができず、ホームレスを経験しました。ビルの階段で一夜を明かしていたら通報されて。警察官に覚醒剤をやっているのではないかと疑われ、留置されたこともありました。していないのに!」

 刑務所を出所した後こそが地獄─。どんなに心を入れ替えようと、風当たりは強く、一度罪を犯した者への差別や偏見は容赦ない。だからこそ、竹田さんは「更生」への意欲が削がれる前にホームで「生き直し」のきっかけをつくりたいと必死なのだ。

「出所後にうちのホームで問題を起こして、また刑務所に入ることになれば、次に出てきたときは、一度関わった私とはコンタクトがとれない。ただでさえ少ない“味方”が減るんですよ。もったいないと思います」

 親身になって心配をしても、なかなか思いは届かない。それでも、更生に向かう人の気持ちに寄り添える自負がある。

「この仕事は、今の私にできる天職ですね。あ、あの子から連絡きました!“ごめんなさい”って(笑)」

 スマホの画面に目を落とす竹田さんの顔がパッと華やいだ。無断外泊していた外国籍の少女からのLINEだった。