毛筆で書くメニューは“唯一無二”
確かに、店に入っていちばん最初に見るものはメニューだ。そこに高級感があれば、自然と店の印象も変わってくるだろう。
「私のところにメニュー書きをオーダーされるお店は、少し単価が高めのところが多いと思います。居酒屋さんは親しみやすさも大切なので、店主さんの手書きでも問題ないと思いますが、敷居の高いお店だと、筆耕というものも意味があるかなと」(なすごさん)
筆耕とは文字を書いて報酬を得る仕事のこと。まさに字を書く職人だ。ちなみに、なすごさんにお願いすると、納期や価格はどのくらいかかるのか?
「私は書くのが早いほうなので、メニューなら急いでと言われたらすぐに書きます。以前、明日までに書いてほしいと言われて2時間くらいで書いたことがありました(笑)。
ただ、お店のロゴとなると、すぐにはできません。パターンをいくつか出してからになるので、大体1週間くらいですね。
価格は量にもよるので要相談になりますが、ロゴだと大体5万円くらい。メニューだと1枚2万~3万円くらいが相場です。2回目以降、メニューの内容が変わったときの書き直しは、パターンがもうできているので1枚5000円くらいです」(なすごさん)
ここ2年以上、コロナ禍で飲食店には逆風が吹きっぱなし。この状況ではメニュー書きの依頼も減ったのではないかと思うが、
「確かにお店をたたんでしまったところもありますが、意外と開業されるお店も多いんです。いただくオーダーはちょっと減ったかなくらいで、そこまで減ったという印象はないですね。
私がオーダーを受けているのは大企業ではなく、個人でやっているお店なので、そこまで打撃は受けていないみたいです」
パソコンなどで誰でも簡単にデザインができ、手書きをしなくてもきれいなメニューなどが作れる時代。書道家という立場から、なすごさんは筆耕という仕事はこれからどうなると思うのだろうか。
「逆に手書きが見直されているのかな、と思っています。ロゴや店名の看板や暖簾については、毛筆で書く唯一無二のもの。ほかのお店はまねできません。メニューだって、パソコンで作られた文字が並んでいる中に手書きの文字があれば目立ちますよね。
店の看板やロゴは集客にも関わってくる大切な部分。まだまだ需要はあると思います。メニューに関しては、やはり内容も変わっていくものなので、自分で書けるようになりたいな、という人はかなり増えていると思います」
たかがメニュー、されどメニュー。コロナ禍が収まったとき、飲食店で手書きのメニューを見たらちょっと違う目で見ることができるかも。
《取材・文/蒔田 稔》