目次
Page 1
ー 子どもたちが通いやすい学校に
Page 2
ー 更生した非行少年の10年後
Page 3
ー 施設で育ち、暴走族総長へ
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ー 頭を下げて謝り倒す屈辱
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ー 被災地支援で出会った子どもたち
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ー 憎んでいた父親からの謝罪
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ー 「誰でもリーダーになれる」

 

 父親からの虐待を機に施設で育ち、ヤクザの世界へ。元暴走族総長で、2回の逮捕歴がある。だが、24歳で更生を決意して以降、非行少年3500人以上の更生や被災地支援などを精力的に続けてきた。今やJR、コカ・コーラなど有名企業に招かれて人材育成を行う立場だ。誰かの活動を支持して見守るのではなく、おのおのが使命を見つけ、「その道のリーダーになれるはず」と熱弁する社会起業家・加藤秀視さんの原動力とは―。

子どもたちが通いやすい学校に

 立春前、北風の吹く東京・町田駅。いじめ問題に対する教育現場の隠蔽や不正撲滅を訴えて、憲法16条「請願権」の改正を求める署名を募る人たちがいた。その老若男女の輪の中心に、熱く語りかける男性の姿がある。

「大きな声を出してすいません!誰かを助けたいと思ったら、具体的に動かなければいけないんです!それが署名なんです。署名を100万人集めて、いじめを隠蔽しない仕組みを作りましょう!」

 黒いキャップを被ったちょっと怖そうな風貌のその人は、加藤秀視(しゅうし)さん(45)。元暴走族の総長で、現在は非行少年たちの更生を目的に開業した建設会社を営む社会起業家だ。数多くの更生・指導の実績が評価され、「文部科学大臣奨励賞」や「衆議院議長奨励賞」などを受賞している。

 加藤さんがいじめに関する署名活動を始めたきっかけは、北海道旭川市で昨年3月、中学2年の廣瀬爽彩(さあや)さん(当時14歳)が凍死体で発見され、市教委が事実確認を進めている問題にある。

「爽彩さんはネット上に拡散された自身の画像のことで悩んでいました。学校側がいじめを正式に認めずに、きちんと調査をしないでいるうちに悲劇は起きてしまったんです。全国で起きているいじめ問題は、学校や教育委員会の隠蔽体質と関係性が深いこともよくわかりました。この問題の真相究明といじめ防止対策推進法の徹底した遂行を断固として求めていきます」

 だが、学校関係者への誹謗中傷がネット上で広がっていることについては「全く意味がない」と言う。個人的な攻撃が目的ではないからだ。

「誰かを責めて誰かが潰れれば、Twitter上じゃOKなんでしょうけど、そんなこと繰り返していたって、何の解決にもならないんですよ。子どもたちが通いやすい学校にして、同じような犠牲者を出さない仕組みを作るために動こうって決めたんです」

 加藤さんに賛同するさまざまな立場の支援者が、全国各地で署名活動を展開している。この日、街頭演説に参加した社会派ユーチューバー・令和タケちゃんこと後藤武司さん(27)もその1人。加藤さんがこの問題の焦点を教育に当てるのに対し、後藤さんは政治に焦点を当てている。

「考え方の違いはあっても、目指すゴールは一緒であるため、協働している」と加藤さんは言う。ほかにも、中高生の親たちや20~30代の若者たちも署名を呼びかけていた。

 参加者の大寳(おおだから)直人さん(26)は、加藤さんのような起業家を目指しているという。

「ご自分が虐待を受けたりしたバックグラウンドがあるので、こうした問題にも本気で寄り添って、上っ面じゃないんですよ。署名活動の結果を報告するといつも“ありがとうございます、引き続きお願いします”と言ってくれます。われわれスタッフに対する尊敬の気持ちがすごくて、上から目線じゃないんです」

 街頭演説に加え、オンライン署名も行い、12万人ほどの署名が集まっている(3月15日現在)。歌手でEXILEのメンバー、ATSUSHI(41)も共感し、自ら加藤さんに連絡を取り、ユーチューブチャンネルで約4000人の署名を集めた。ATSUSHIは加藤さんとの対談の中で、「自分の影響力をこのような活動に使ってもらうことが本望」と語っている。

「街頭で声を枯らしても、正直、そんなに数は集まらないんです。本当は有名な方とユーチューブでコラボしたほうが、効率よく署名も集まりますし、チャンネル登録者数も伸びて、プラスになるんです。

 それでも街頭演説を続けるのは、無関心な通りすがりの人たちに誰かが何か騒いで訴えてるってことを感じてほしいから。多くの人を巻き込みたいという思いでやっています

 SNSを通じ、加藤さんのもとにはいじめの悩みを持つ子どもや母親たちからたくさんの相談が寄せられる。緊急性やリスクが高い場合は、現地に赴き問題解決に向けたサポートをすることもある。

 昨年10月、いじめを苦に自殺を図った中学1年生の娘を持つ母親のAさんが取材に応じてくれた。大阪在住のAさんは学校が自殺未遂といじめとの因果関係を認めず、調査や指導も行わないことに苦慮していた。

「自治体の相談窓口や支援団体にも相談に行きましたが、真剣に聞き入れてもらえなくて……。そんなとき、偶然、加藤さんのユーチューブを見てメッセージを送りました」

 2月末、加藤さんは学校との協議のため、正式にアポイントを取った。だが当日、学校側が弁護士以外の同席を認めず、校門前で足止めされる事態となる。加藤さんは「僕は中に入れなくていいので、絶対解決すると約束してほしい」と訴えた。

 Aさんと娘が校内に入り、話し合いは5時間に及んだ。

 結果、初めて同席した校長がいじめの調査を改めて行うことを誓ったという。

「校門前で私たちを待っていてくださった加藤さんは、娘に、“生きていてよかったと思える人生を送ってほしい”と話してくれました。それは本当に大切なことだなぁと。

 この先、たとえ学校に行けなかったとしても、きっと娘にはいろんな出会いがあって、あんなことがあったけど、生きててよかったと思ってくれたらいいなと思っています」