どの道待ち受ける負担地獄
課税事業者になると、いくら消費税を納めなければならないのか。湖東さんがおおよその目安を教えてくれた。
「例えば、年間900万円の売り上げのライターがいたとします。簡易課税制度を使うと900万円の半分×10%で、納税額は45万円ぐらい。その分、手取り収入が減ることになります」
2を選んだ場合、企業が控除を受けられなくなるので嫌がられ、仕事を切られるおそれがある。その風潮が1つの企業だけにとどまらず、業界全体に広がると、取引の輪から排除されかねない。一方、3を選ぶと、値引きした分だけ売り上げや収入が減ってしまう。どれを選んでも待ち受けるのは負担地獄……。
「ヨーロッパでは消費税のスタートと同時にインボイスが導入されました。免税制度も残されてはいますが、番号を登録しないと仕事が来ないので、みんな課税事業者になることを選んでいます。その結果、零細の免税事業者は廃業が続出、ほぼ淘汰されてしまいました。それを日本でもやろうとしているわけです」
一般社団法人『プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会』の最新調査によると、コロナ禍の前に比べて減収が見込まれる個人事業主は37%に上るという。そこへインボイスが加わる打撃は大きい。
さらにいうと、日本では全企業のなかで中小企業が99・7%を占める。そのうち約4割は年間売上高が1000万円以下。そうした中小企業にとって、インボイスが大きな負担となることは想像に難くない。
「廃業や倒産が増えるおそれがあります。特に、すでにシャッター商店街が広がり工場の閉鎖も相次ぐ地方では、悲惨な状況になりかねません」
コロナ禍や物価高騰に苦しむ中小企業に追い打ちをかけかねないとして、3月30日、立憲民主党はインボイス制度の廃止法案を衆院に提出した。政治の場でも、この問題がにわかに注視され始めている。
インボイスの導入にあたって湖東さんが危惧しているのは、消費税率の引き上げだ。
「政府はインボイスの必要性について、軽減税率が導入され、消費税が8%と10%の複数の税率になったことから、誰がいくら消費税を払ったのか明確にわかるようにしなければならないと強調しています。加えて財務省も、“消費税が2ケタの税率になったらインボイスを導入すべき、そうしなければ諸外国から認めてもらえない”などと主張しています。つまりインボイスは消費税率の引き上げにお墨付きを与えてくれる、その口実になる制度だということ。それがインボイスの真の狙いであると、私は考えています」