低コストな油で作った代替品
即席麺と同様“隠れ油”として見えない形で脂質が多いのが菓子パンや食パン、と安部さんは言う。
「成人女性の1日当たりの脂質摂取量は38g~66gが目安とされていますが、菓子パン1個には、その下限に迫る量が含まれるものも。また、女性に人気のデニッシュパンは、即席麺以上に脂質が含まれています。しっとり感を出すため、硬化油をたくさん使っていますから」
なぜ、ここまで硬化油を使用するのだろうか?安部さんは、
「安くて美味しいものが食べたい、という消費者のニーズがあるからだと考えられます」
と説明する。
「カカオ豆から抽出されるココアバターの代わりに、体温で溶けるよう調整した硬化油を使い、乳化剤で滑らかにして着色料で色をつけ、チョコレートフレーバーを加えれば口溶けチョコレート風の食品が完成。硬化油に水と乳化剤を入れ、増粘多糖類でとろみをつけて香料でクリーム風味をつける。これでホイップクリーム風になります。
どちらも、ココアバターを使ったり乳脂肪100%の生クリームを使うより、はるかに低コストで作れます。要は代替品であり、イミテーションなんです」
トランス脂肪酸や、油まみれの食品を知らないうちに口にしている。予防策としては、どんなことができるのか。
「食品のラベルを見るしかないですね。精製加工油脂とか、よくわからない表示があったら疑ってみることです。ショートニングやマーガリンには原材料としてこの油脂が表示されています。
食品会社はこの油脂がどういったものかを公表していないので予想するしかないのですが、精製加工油脂の“加工”というのはほとんどの場合水素添加だと私は思っています」
パンや即席麺などの2次的な加工品については法律上、使用された油脂の原料を正確に表記する必要がない。水素添加された硬化油を使っていても、使用したものが植物油なら、植物油脂や加工油脂と表記していれば問題はない。
食品会社は、欧米に比べて日本人はトランス脂肪酸の摂取量が少ないので、健康への影響は少ないと説明している。ただ、食生活には個人差があり、また、アメリカやヨーロッパと違って、日本にはトランス脂肪酸の表示の義務がないのが現状だ。この状況に安部さんは、
「“加工油脂というものは何なのか?身体に悪いものではないのか?”と消費者が声をあげることで、企業にトランス脂肪酸は何グラム入っています、と表示させるところまで持っていかなくてはダメだと思います。
また、消費者も“安くて美味しい”を求める食生活を見直すべきです。確かにスーパーやコンビニに並んだ、日持ちのする惣菜や即席麺は便利です。でもその食品には人工的に作られた油分や、添加物が大量に使われているんです。
添加物はとりたくない。でも安くて安全なものが欲しい。そんな食べものがあると思いますか?安くするために遺伝子組み換えや農薬、添加物があるんですから」
〈取材・文/蒔田 稔〉