そこで小山さんは具体的な注意点を挙げる。

「管理者が常駐しているキャンプ場を選ぶのが安心です。予約やチェックインの際には、管理者にひとりで泊まることを伝えて、緊急時の連絡先も確認しておきたいですね」

 先に挙げた『教え魔』など人とのトラブルを防ぐには?

「管理棟の近くや人通りの多い場所にテントを設営しましょう。特にトイレへの動線がいい場所なら人通りもありますし、便利。設営する前に両隣、近隣キャンパーに挨拶をして、その人たちが女性なのかファミリー層なのかもチェックすれば、対人トラブルや盗難の防止にもつながります」

 テントまわりの防犯対策も忘れずに。

「テントはダブルチャックのものを選び、チャックを南京錠で留めておけば、外から勝手に開けられることもありません。もしテントがダブルチャックでなければ、テントの最下部に南京錠用のループを事前に縫い付けておくのも一案。

 またテントの入り口に人感センサー付きのライトを置くと安心ですね。男性用の靴をテントの前に置いておくと、複数人で泊まっているよう装うことができます」

 テントに泊まるのが不安なら車中泊するのもありだ。

「男性にしつこく声をかけられた際には、フレンドリーに接することなく、“後から彼氏や夫が来る”と対応する、いわば嘘も方便です。また『教え魔』対策としては、“キャンプ経験が豊富な彼氏や夫に教えてもらう予定がある”など伝え“今、あなたに教えてもらう必要がない”ことを理解させるのも効果的です」

 最悪の事態も想定して、防犯ブザーは必携だ。

「出かける前に、ほかの人の迷惑にならない場所で防犯ブザーがちゃんと鳴るか確認しましょう。ホイッスルもよいですが、実際には呼吸を整えて、大きな音を出さないといけないのでブザーよりもハードルが高い」

 小山さんはうっかり犯しがちなミスも指摘。

「地面で直接焚き火をして、片づけずに帰る“焚き逃げ”の問題です。“よく炭は自然のものだから土に還る”と言う人もいますが、炭は自然に還りません。燃え残った炭は自治体のルールにのっとって処分するのが原則です。

 みんながこれをすると、いずれキャンプをする場所が消滅してしまいます。“来たときより美しく”という言葉を念頭に、マナーを守ってキャンプを楽しみたいですね」

ソロキャンプデビューもこれで安心!

 ここまで数々の防犯対策を列挙してきたが、ソロキャンプでは、なにかと女性側が自衛を強いられる男女不均衡な現状は否めない。小山さんは次のように思いを語る。

日本単独野営協会の公式サイト(https://tandokuyaei.com)。「初心者の部屋」では、ソロキャンプを始めるための持ち物や注意点を詳しく紹介している
日本単独野営協会の公式サイト(https://tandokuyaei.com)。「初心者の部屋」では、ソロキャンプを始めるための持ち物や注意点を詳しく紹介している
【写真】日本単独野営協会の公式サイトに書かれた、ソロキャンプの<心得>

「これはほかの社会問題でも言えることなのですが、ソロキャンプでの女性特有の問題は、その当事者にしか見えないことが山ほどある。

 女性のソロキャンパーが増えれば、女性が女性のために問題解決を図ることもできる。全体の女性比率を増やすことも喫緊の課題です」

 小山さんたちが運営する日本単独野営協会の普及活動の一環に「ソロキャンプスタートアップ支援制度」がある。

「熟練の支援員が付かず離れずの場所で待機し、わからないことや困ったことがあったときだけ、アドバイスや指導をする制度です。必要に応じて声をかけてもらえたら、支援員が対応します」

 そんな小山さんらの活動のかいもあってか、最近では中高年女性のソロキャンパーも増えてきたようだ。埼玉県在住の池野恵子さん(50代・仮名)も2年前にソロキャンプデビューを果たしたひとり。

「昔は家族でキャンプをしていたのですが、息子が大学生になって子育ても一段落したタイミングで、ソロキャンプを始めました。自然の中、ひとりでテントの中でゴロゴロして、誰にも遠慮せずにダラダラできる時間は最高です(笑)」

 妻として母として、これまで家族のために働いてきた恵子さんも、ソロキャンプで本来の自分自身を取り戻しているのだ。

「どんなに慣れた人でも自然の力の前では無力です」と、小山さんは語る。どこへ行くのも、何を食べるのも自由。そんな時間と自然をめいっぱい満喫するためにも、備えを万全にして、ソロキャンプを楽しみたい。

 お話を聞いたのは…日本単独野営協会 小山仁さん ●代表理事。ソロキャンプの普及促進に関する活動や情報交換などを行う。同団体の会員数は全国で約2万人。ソロキャンプの第一人者として講演やメディア出演も多数。

〈取材・文/アケミン〉