死ぬくらいなら生活保護を受けたほうがいい

 田口さんが母子生活支援施設に住むことができる期限は2年間。期限は人によって変わるが、彼女は予定どおり2年で立ち退いた。

 そして同じ区にある1Kのマンションに引っ越した。引っ越し代や、初期の家具代などはすべて生活保護でまかなえたという。

「60平方メートルの3LDKから、20平方メートルの1Kに移ったので、最初は『狭い!!』って思いました。でももちろん汚い物件ではないし、知り合いが遊びに来たときは“こんなステキなところに住めて、うらやましい!!”と言われたほどです」

 田口さんは引っ越してからの1年も生活保護で過ごした。子どもに付き添い、愛情を注ぐ3年間を送るためだった。子どもの愛着障害の症状はしだいに治まっていった。

「3年たった後は、すぐに働き始めました。運良くそれなりに大きい会社に入社することができて、1か月で生活保護は即時廃止に。区役所が勤め先を“きちんと給料が払える会社”だと確認したら、すぐ止まるようです」

 生活保護期間が終わった後も、田口さんは同じ部屋に住み続けているという。もちろん自分でお金を払い続けることになるが、そのまま継続して住むことも自由なのだ。

 田口さんは、子どもとの3年間の受給生活後にスパッと生活保護をやめたが、それはとてもレアなケースだと職員に言われた。

「“生活保護を予定どおりやめられる人は、めったにいない”と言われました。延々と生活保護で暮らし続ける人が多くいる。そういう人に対して批判的な意見があることも知っています。

 ただ、私は生活保護と母子生活支援施設のおかげで助かりました。とても快適で、現在の日々の生活に疲れたとき、“施設時代に戻りたいな”と思うくらいです。

 今では子どもは9歳になって元気に学校に通っています。現在の制度に感謝しかありません」

 SNSを見ていると“生活保護を受けるくらいなら死んだほうがマシ”などと暴言を吐く人も少なくない。

 しかし、死ぬくらいなら生活保護を受けたほうが絶対にいい。親子で生き場所を失ったなら心中を選ぶのではなく、施設に駆け込んでほしい、と田口さんは語る。

 もし、罪悪感を感じるなら、生活保護生活を終えた後に頑張って働いて、税金を納めるなり、寄付をするなりすればいいだろう。命より大事なものがあるだろうか。

「とにかく『生きる』ことを最優先にしてほしいです」

「今は小学生になった子どもと2人暮らし」という田口さん
「今は小学生になった子どもと2人暮らし」という田口さん
【写真】生活保護受給を体験し、現在はウェブサイトの編集長の田口ゆうさん
田口ゆうさん●マイノリティー向けウェブサイト『あいである広場』編集長兼ライター、漫画原作者。母子支援施設入居経験と生活保護受給体験を経て、現在は9歳の子と暮らす
取材・文/村田らむ●ルポライター、イラストレーター、漫画家。愛知県名古屋市出身。貧困やホームレス、新興宗教など社会的マイノリティーをテーマにしたルポルタージュが多い。近著に『人怖 人の狂気に潜む本当の恐怖』(竹書房)『非会社員の知られざる稼ぎ方』(光文社)など。