インフルエンサーは商品企画について“素人”だから…
しかし、近年の有名人ブランドは少々事情が変わった。
「'10年代後半から、タレントやインフルエンサーがアパレル企業を挟まず直接OEM業者、ODM業者と組んでオリジナル商品を作るという形態になりました」
これにより、以前のようなアパレル企業のバックアップを受けた有名人ブランドに比べてさらに短命となることが増えた。なぜか。OEMとは製造委託。委託するブランド側が商品企画を行い、OEM業者は委託側ブランド名義の商品の生産を行う。ODMは商品企画から請け負う業種だ。
「恐らくはアパレル企業を外すことで利益増加を狙ったのだと思います。しかし、インフルエンサーというのはアパレルの商品企画について基本的に“素人”ですから、単品アイテムくらいしか思いつかない。たとえば今回はジーンズだけとか、今回はTシャツだけとか。そうなると購買層もあまり買わないですし、販売できる枚数も限られています。そのうちにインフルエンサー側もアイデアが枯渇します。そのため売れない。そしてアイデアも無くなってきたから、“やめよう”というのがちょうど2年から3年くらいの時期になります。
紗栄子さんのブランドは初シーズンにたった7型しか用意できていません。レディースであれば、1シーズンに最低30型は必要だと考えます」
型数が作れないと、たとえば実店舗のあるブランドであれば、商品数が少なく店が寂しくなる。そのときにバックアップする企業がするのは……。
「どこもやっているという話ではないですが、有名人のアイデアによる商品だけでは型数が少ない場合、そのアイデアから派生したような商品などを加えることはあるかと思います。アパレル企業はそういった作業を何十年もやってきているので、そのノウハウがあります」
アパレル企業などの“専門家”のバックアップで重要なのが『マーチャンダイジング』。アパレル企業ではこの業務を『MD』と呼び、マーチャンダイザーは非常に重要な立場となる。
「マーチャンダイザーという職種はかなり権限が大きく、場合によっては経営者以上に重要な仕事で、現代のアパレルビジネスにとっては心臓部とも言えます。直訳すると、マーチャンダイジング=商品計画。どんな商品をいつ・どこで・どれだけ・何円で売るかを決める仕事です。この計画が杜撰であると、大量の売れ残りが発生したり、投げ売り価格の値引きが発生してしまい、企業は赤字になります。
どんな商品を、というところも重要。ここには商品作りやセレクトのセンス・感覚が問われます。こんな商品を作る、または仕入れるという商品面のプランニングに加えて、販路・価格・量・販売期間を定めるという経営的プランニングの両方を一手に引き受けるのがマーチャンダイザーです」
アパレル企業を挟まず、この業務を半ば“ないがしろ”にした結果、有名人ブランドは短命に終わるのではないかと南氏。