誰ひとり見捨てない覚悟

 毎週日曜日は、主日礼拝と呼ばれる礼拝を、柏と札幌、両方の教会で行う。午前中は柏、そのあと飛行機で札幌に移動する生活を、かれこれ8年も続けている。

教会の名前は、聖書にあるシロアムの池が由来。イエス・キリストがこの池で盲人の目を洗って開眼させたように、大切なことが見えなくなっている人々が目を洗いに来る場所でもある(撮影/渡邉智裕)
教会の名前は、聖書にあるシロアムの池が由来。イエス・キリストがこの池で盲人の目を洗って開眼させたように、大切なことが見えなくなっている人々が目を洗いに来る場所でもある(撮影/渡邉智裕)
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「礼拝には悲しみや悩みを抱える方も多くみえられます。聖書の教えをわかりやすく説き、ともに祈ることで気持ちが整理され、進むべき方向が見えてくるんですね」

 元東洋バンタム級チャンピオンで、現在インスパイヤードモーション・キックボクシングスタジオ会長の山本アキラさん(52)も、かつて深い悩みを抱えていたと振り返る。

「30歳で現役を引退し、希望を胸に第二の人生を踏み出したものの、元格闘家では就活もうまくいかなくて。アルバイトで食いつなぎながら、人生の目標を見失っていました。過去の栄光があるから、よけいにつらかったですね」

 その状態から抜け出せたのは、知人の紹介で礼拝に通い始めてしばらくしてのこと。

「礼拝で先生のお話を聞くと、自然に涙があふれました。地位や名誉がなくても、神様に愛され、守られているというメッセージが伝わってきて。

 社会から落ちこぼれたって、俺は俺。そう自分を認められてからやっと前を向けた。後進を育てたいという夢もできました。不思議なもので自分が変わると、出会いにも恵まれて。ジムを立ち上げ、15年間で8人の日本チャンピオンを育てることができました」

 多くの人が自由に出入りできる場所ゆえ、ひと筋縄でいかない人も来る。時に命の危険を感じることもあるという。

「こないだなんて札幌の教会で、悩みを話し終えた男性が刃物を出して、私を道連れに死のうと思ってたって言うんです。説得して事なきを得ましたが、驚きました」

 それでも扉を閉ざすことなく、人々を受け入れ続ける。

 男性限定だった『人生やり直し道場』の活動では、女性を救うための新しいプロジェクトも進行中だ。

「殺人や傷害などで、15年、20年と長期で服役した女性受刑者が、仮釈放後に社会復帰の準備をする施設を作ります。中心になるスタッフは元受刑者で更生した女性です。経験者だからこそわかる意見を取り入れて、お節介なくらいかかわっていくつもりです」

 見返りなんて何ひとつない。

 懸命に支えても、再犯で捕まったり、行方知れずになる人も少なくない。

 それでも、誰ひとり見捨てることなく、迎え入れる。

 その原動力を問うと──。

「それはね、元ヤクザ風に言うなら、私の親分がイエス様だからですよ」

 神に愛され、許された男は、人々を愛し、許し続ける。

「大丈夫。何があっても必ずやり直せる」、神様と二人三脚で支えながら──。

広々とした礼拝堂には、コロナ禍ということもありいすが間隔をあけて並ぶ。主日礼拝の日は多くの人が集まる(撮影/渡邉智裕)
広々とした礼拝堂には、コロナ禍ということもありいすが間隔をあけて並ぶ。主日礼拝の日は多くの人が集まる(撮影/渡邉智裕)
取材・文/中山み登り(なかやま・みどり)ルポライター。東京都生まれ。高齢化、子育て、働く母親の現状など現代社会が抱える問題を精力的に取材。主な著書に『自立した子に育てる』(PHP研究所)『二度目の自分探し』(光文社文庫)など。大学生の娘を育てるシングルマザー。