誰が汚したのか?わかる仕組みに
「当協会も1966年の創設以来、キャンプ指導者の育成やさまざまな施策を通じて、キャンプの普及やマナー向上についての啓発に努めてきました。また、最近の事例では、茨城県のキャンプ関係団体が協力して『初めてでも安心 ルールとマナーがわかるキャンプの教科書』という本を出版していて、キャンプ初心者の方には非常に参考になる情報を提供しています。
このように、キャンプ業界に関わるさまざまな企業や団体がさらなるマナー向上を図って奮闘しているところです」(依田さん)
また、今春の大型連休には埼玉県・飯能河原のキャンプ場が、これまで無料だった施設を有料化する実証実験を行った。その結果、利用客のマナーが大幅に改善され、無料キャンプ場の有料化は今後も全国各地で広がりそうだ。
この点について、前出の矢部さんは“有料化がマナー向上につながる”という効果には、やや懐疑的だという。
「われわれのような有料キャンプ場にも、マナーの悪いお客さんは一定数います。中には“お金を払って使っているのだから、利用客が出したゴミの処理や、共用スペースの清掃などは、当然管理者がやるべきだ”といった声もありますし、有料だからこそ多少のワガママも許されると思ってしまう人は増えている気がします。費用負担ではなく、もっと根本的な部分でキャンプマナーを周知していく必要がありますね」(矢部さん)
また、日本キャンプ協会の依田さんは“匿名性”とマナーの関連について指摘する。
「有料か無料かというよりは、“誰が使ったのかがきちんとわかる”という点がキャンプマナー向上につながるように思います。不特定多数の利用者がいて、汚したのが誰かわからないようなキャンプ場よりは、きちんと利用者登録を行い、誰がどのように使ったのかがわかるキャンプ場のほうが、利用する側としても“マナーよく使おう”という自制心が強く働くのではないでしょうか」(依田さん)
とはいえ、開放的な自然の中で、無意識のうちにマナー違反をすることはあるかもしれない。気持ちよくキャンプ場での時間を過ごすためには、どんな心がけが必要か。
「自然の中でつい忘れがちになってしまうかもしれませんが、たとえ野外の無料キャンプ場であってもそこが公共の場であるという意識を持つことは大切です。
また、多くの人にとってキャンプは非日常の体験だと思うので、安全のためにも事前準備は不可欠。細かいルールはキャンプ場によっても異なるため、何がマナー違反になるのかを事前に確認しておくことで、トラブルの多くは未然に防げると思います」(矢部さん)
キャンプ場での対人トラブル回避のためには、ほかの利用者への配慮が最も重要。
「近隣のテントの人や場内ですれ違う人など、他の利用客と顔を合わせたときにきちんと挨拶をしておくことは、些細なことですがとても有効です。
“こんにちは”というひと言を交わしておくだけでも、お互いに安心感が生まれますし、“何かご迷惑をおかけするようなことがあったら遠慮なく言ってくださいね”といった関係性が最初にできれば、より快適に過ごせると思います。利用者同士が尊重し合うことこそが、キャンプマナー向上への第一歩かもしれません」(依田さん)
他人の目を意識しづらい自然の中だからこそ、他人を思いやる気持ちがより大切になるのかもしれない。
〈取材・文/吉信 武〉