まずは流れを知って頑張りすぎない準備を!
死後の手続きの流れと、自ら準備しておきたいことをまとめた。まずは全体像を頭に入れてほしい。
手続きの分野は多岐にわたっている。ただし、遺された家族が各分野の手続きをすべて実行しなければならないわけではない。明石さんはこう解説する。
「遺族年金や葬祭費、死亡保険金など、受け取れる人が請求すればもらえるものや、準確定申告や相続税申告など必要な場合のみ行うものもある。個々の状況で変わるので、準備が必要か否かの見極めは必要です」(明石さん、以下同)
新制度の導入で必要な手続きも変わる
必要性が高く、家族を楽にできる備えは何なのか。そのポイントを手続きの流れに沿って紹介しよう。
まず死後に行う手続きの第一歩は死亡届の提出だ。死亡届が提出されないと火葬許可証がもらえないため、葬儀や火葬を行えない。
「死亡届記入時に家族が困らないよう、本籍地と筆頭者名情報はわかるようにしておきましょう。
葬儀の準備は、葬儀社を即座に決め、あわせて葬儀を行う場所、人数などを決めなければなりません。菩提寺がある場合は菩提寺への連絡が即必要になります。その際訃報の連絡先がわかれば大まかな人数の把握ができます。遺影写真の加工も即手配が必要なため、遺影に使ってもらいたい写真の保管先がわかると葬儀社に即渡せます」
次は年金・健康保険関係。現在、年金はマイナンバーと紐づけられているため、原則、受給権者死亡届は不要に。
「ただし、未支給年金や遺族年金などを受給できる人がいる場合は手続きが必要なため、一度、役所や年金事務所に問い合わせてみましょう」
続く相続準備は相続関連手続きを円滑に進めるべく、財産の情報をわかるようにしておくのは絶対だ。
「遺言書がない場合は、相続人で話し合って遺産の分け方を決めなければなりません。その決めた内容を書面(遺産分割協議書)にし、金融機関などで手続きを行っていくため、どのような財産があるのかがわからないと困ります。
最近は、ネットやアプリなど、デジタル取引を行っていたり、WEB明細にしていたりする人が増えているため、取引が把握しにくくなっています。家族が解約などの手続きを行う必要があるものは、わかるようにしておきましょう」
もらえるお金は対象に該当するかチェック
自分の死後、遺された家族の請求によって、もらえるお金や戻ってくるお金がある。
「例えば、故人と生計が一緒だったなど要件を満たしている場合、未支給年金や遺族年金などの請求ができます。健康保険証の返却をする際に葬祭費の請求をすれば、葬儀費用を支払った人(大抵は喪主)に5万円程度が支給されます。
医療費や介護費を一定額以上負担した場合は、高額療養費や高額介護サービス費などの支給のお知らせが役所から届きます。故人が死亡保険に加入していた場合は、受取人が請求すれば保険金を受け取れます」
一方、頼れる親族がいないおひとりさまの場合、死後のことを行ってもらう相手と「死後事務委任契約」を結んでおいたり、「公正証書遺言」で遺言執行者になってもらうよう指定しておくなど、事前準備をしておきたい。
おひとりさまがしておきたい死後の契約
『死後事務委任契約』
遺体の引き取り、葬儀、納骨、埋葬などの事務手続きを委任できる。司法書士、行政書士などが窓口
『公正証書遺言』
遺産の扱いを、公正役場の公証人に伝えて作成する遺言。遺言書として信頼度が高い
準備しすぎることで家族の負担になることも
「必要な準備ならいいが、過剰な備えは家族を不幸にすることもある」と明石さん。
「子どもに迷惑をかけたくない親は、親心から葬儀やお墓のことを先回りして心配し、『葬儀は親戚を呼ぶと大変だから家族だけでやればいい』『お墓は管理が大変だから海に散骨を』などと要望を伝える人がいます。
いざ子どもたちがその願いを叶えると、親戚からの心無い言葉で傷ついたり、後日焼香に来た人の対応や香典返しの手配などでかえって煩わしい思いをさせてしまったりすることも。
供養をする家族や周囲の気持ちにも目を向け、遺された家族が嫌な思いをしないかどうかも考えるべきです」
自分の死を悲しむ家族を、さらに悲しませることは誰も望まないはずだ。家族にとって、「備えあれば憂いなし」を目指そう。
教えてくれたのは……明石久美さん ●明石行政書士事務所代表。特定行政書士、ファイナンシャルプランナー、葬祭アドバイザーなど多数の資格を持つ。終活、相続に関する支援を専門に行う。『死ぬ前にやっておきたい手続きのすべて』(水王舎)など著書多数。
〈取材・文/百瀬康司〉