鶴見辰吾さんと長年温めてきた夢
鶴見さんは「いろいろな人生の段階を踏んでいく過程で女優をやめてしまう方も多く、50代、60代になってしっかりした演技のできる女優となると非常に数少なくなってくる。そういう意味でも杉田さんが戻ってきてくれたのはすごくうれしい」と話す。長年2人で温めてきたひとつの夢があるという。
「“『ラヴ・レターズ』のような朗読劇をいつか2人でやってみたいね”と杉田さんと言っていて。なかなか実現できないまま時間がたってしまったけれど、何とか形にしたい。やっぱりこういうものは昨日今日お会いした人とではできない表現がある。長い2人の関係というものがあって、それは僕と杉田さんの大きな財産ではないかと思っています」
俳優仲間からの信頼も厚く、子役時代から高い演技力で知られてきた。復帰後もブランクを感じさせることなく、出演作は軒並み高い評価を寄せられている。しかし当人の手応えはまた違うよう。
「きちんとセリフがしゃべれるか、現場ではもうドキドキしっぱなし。毎回リハビリをしているような気分です(笑)」と杉田さん。再スタートの心境をこう語る。
「役を作るのってとにかく大変で、クランクインするまで緊張で寝られないし、毎回産みの苦しみを味わっています。自分の中で“よし、今回はうまくできた!”なんて思ったことはこれまで一度もないし、いまだにそう。明日放送のドラマがあるけれど、怖くてまだ見てなくて、放送もきっと見れないと思う」
自身の過去作品と向き合えるようになったのは数年前、介護の最中のことだった。
「ちょうど『パパと呼ばないで』の再放送が衛星放送で始まって、母と一緒に“あのときこうだったよね”と話をしながら見ていたんです。そのとき初めて、ドラマに出ていて良かったなと思えて。昔の作品を見ていると、こんなにいい役をいただいていたんだと改めて感じます」
50年という長い月日を芸能界で生きてきた。女優のキャリアは自身の人生そのもので、そこで学んだものは多い。
「セリフのひとつひとつが自分の人生にすごく影響を与えているんですよね。言葉をあまり知らないときからこの仕事をしてきたので、それが自分の哲学になっている。
私にとってドラマは教科書で、その哲学どおりに生きてこられた。そういう作品に巡り合えてこられたのは本当に幸せだし、感謝しなければと思っています」
天才子役ともてはやされ、一転大きな挫折を味わった。浮き沈みを幾度も経験し、それでも女優であり続ける。やはり女優は天職?
「うーん、どうなんでしょう。そう思っていたこともあるけれど、今は正直よくわからなくて(笑)」と杉田さん。最近新たに気づいたことがあるという。
「人が笑ってくれることで、自分も元気になる。人の笑顔が自分のガソリンになる。それが自分の本質だということに気がついて。ドラマやバラエティーもそうだし介護もそう。みんなに喜んでもらうと素直にうれしいと思えるので、そんなに無理して芸能人をやっているわけではないというか、本当にそれだけで続けてこられた気がします。
女優の仕事にしても、自分に求められる役があれば、やっぱりきちんと応えていきたい。オファーがあるうちは女優を天職だと信じて(笑)、一生懸命頑張ろうと思っています」
〈取材・文/小野寺悦子 ヘアメイク/村中サチエ〉