たった1人のキョーダイ
麿さんが子どものころからずっと抱えてきた「何かから切り離されてはぐれてしまっているような」感覚を補うかのように、麿さんの周りには、いつも仲間がいた。中学の部室で戯れていたような疑似家族。もしかすると、麿さんにとっては、仲間たちが大きな家族であり、息子たちもその仲間なのかもしれない。
しかし、この10年ほど前から、麿さんにとって仲間とは少し異なる「キョーデエ」と呼び合う存在もできた。「ゲージツ家のクマさん」こと篠原勝之さん(80)だ。共通の知人も多く新宿時代から互いの存在を知ってはいたが、親しくなったのは70歳を越えてからだ。篠原さんは、45周年記念公演『超人』『擬人』に出演したこともあり、大駱駝艦の裏艦長とも呼ばれ艦員にも親しまれている。篠原さんは語る。
「キョーデエなんて呼ぶのは麿だけだな。最初はヤクザ映画のノリだったけどよ。麿とは、なんだか本当の兄弟みたいな感じがするんだ」
そしてお互いに真逆のタイプかもしれないと笑う。
「麿は俺と違ってきまじめで真っすぐな人間だから、一緒にいると可笑(おか)しいんだよ。80歳近くなってもさ、ケツの割れ目まで白く塗ってさらけ出してるけど、頭の中は冷静で勉強家。あの強面もうらやましい。俺はだいたいヘラヘラしてるからね」
お互い、フェイスタイムでも連絡を取る。時折、「かっちゃん(篠原さん)、あそぼ」と子どものようになってふざけてやりとりもする。何の損得も関係なく、ただ一緒にいるだけで楽しい。
「子どものころのことはあえて話しはしないけど、なんとなく知ってるよ。麿は親に怒られなくて寂しかった。俺は親にひどく怒られてばかりいた。麿とはな、性格、考え方、面白いと感じることも違う。でもそれがいい。自分にないものがお互いにあって、不思議な存在。でも根底には、どこか共鳴してるところがあるんだろうな。ジジイ同士、この先も機嫌よく生きたいね」
2023年2月、麿さんは80歳を迎える。コロナ禍で延期となったフランス人ダンサーとのデュオ作品「ゴールドシャワー」のフランス公演は2023年4月、大駱駝艦の新作は2024年に上演予定だ。大駱駝艦も麿さんも、その歩みはまだまだ止まりそうにない。
「3歳の孫にはこの顔で近づくといまだに泣かれるから、一定の距離を保ってチョンチョンっと触るだけ。
腰痛いなあとか、足痛いなあとか、自分の身体の変化も今はまた面白い。僕の踊りは日常のちょっとした狭間(はざま)から生まれますから、どれも踊りのネタになりそうですよ。
かなり先の予定も入っているが、死んだら知らねえぞ、という気分だけどね。まあ、舞台で死んだら、音楽に合わせて電流でも流してもらえれば身体がピクッと動くだろ。それも面白いかもしれないね」
〈取材・文/太田美由紀〉
おおた・みゆき ●大阪府生まれ。フリーライター、編集者。育児、教育、福祉、医療など「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。2017年保育士免許取得。Web版フォーブス ジャパンにて教育コラムを連載中。著書に『新しい時代の共生のカタチ 地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)など。