現行オーナーへの見せしめとしての裁判
調停を申し立て、ロイヤリティの引き下げ交渉などを行っていたが、一向に進展しなかった。業績は悪化を続け、ついに資金が底をつく。
「事業継続が厳しくなり、2022年6月末に一部の店舗を閉店しました。それと、マイナスを取り戻す必要があり、『乃が美』とはまったく違う店舗内装や設備を使い、新たな商品ラインナップを揃えたパン店を立ち上げました」
これに『乃が美』は、同社のノウハウを利用して同じ業態の店舗を開くことは“競業避止義務違反”だとして2022年7月にB氏とのFC契約を解除した。
「そもそも、実態と違う数字を提示して、利益も出ないFC事業を契約させることがおかしい。そのため、『乃が美ホールディングス』との契約は無効であると審理してもらうため、2022年8月に“1円”の損害賠償を求めて提訴しました」
金額が“1円”なのは、どうしてか。
「私は総額で約5億円という損失を被りましたが、そのお金を取り戻すことが目的ではありません。全国に200店舗以上を有する企業が、契約を盾に優越的な立場を利用して、多数のオーナーが苦境に立たされている中、ロイヤリティを搾取する行為は異常です。裁判所には“契約をしたのだから悪い”という杓子定規な判断ではなく、この現実を理解してもらい、FC加盟店がまっとうなビジネスができるような判断を下してほしいと思ってのことです」
この訴訟を受け、『乃が美』はB氏が新たに展開した店舗営業は競業避止違反であるとして2022年9月、B氏に損害賠償を求めて反訴。
「競業避止義務は本来、加盟店がロイヤリティから逃れて儲けようとするのを防ぐための条項であり、そもそも利益が出ず、追い詰められている人に対して、さらに追いはぎをかけるのが目的の条項ではないはず。複数の関係者の話では、『乃が美』が私に対して起こした裁判は“現行オーナーへの見せしめである”と、社長が話していたと聞いています。FC事業というのは、加盟店が苦しいときは、本部がそれを支えるものではないのでしょうか。なのに、その“フリ”すらないのです」
力で押さえつける、企業の姿勢に疑義を呈する。
「上場のためにだけに、業績低迷にあえぐFCオーナーの状況を無視する方針は、ビジネスの本質として間違っている。私が『乃が美』の店舗を閉店したとき、店頭に張り紙でお客様センターの電話番号を載せたのです。すると、本部から“今すぐ削除しろ”と連絡がありました。私もパン自体はおいしいと思って契約しましたし、『乃が美』のファンもいらっしゃるはずなのに……」
こうしたFCオーナーたちの声に『乃が美ホールディングス』はどう答えるのか――。「高級食パン『乃が美』とFCオーナーが双方を訴える裁判トラブル! 本部が回答した店舗の閉店相次ぐワケと反訴の経緯【#2】」に続く。