どうやら現場で新入社員たちは、「弁が立つが、やることをやらない」とレッテルを貼られたようだった。
とりわけ採用責任者が着目したのは「働きがい」である。
辞めた4人のうち、ほとんど全員が「働きがいを感じられない」を口にしていた。
合同説明会から複数回の面接を経て入社するまで、「当社は働きがいのある会社」とアピールし続けた。社長も「働きがいのある会社に生まれ変わった」と事あるごとに繰り返していた。だからこそ、新入社員は裏切られたと感じたのかもしれない。
美味しいイチゴが使われたショートケーキだと言われたから買ったのに、肝心のイチゴがあまり美味しくなかった、ということなのだろう。
「働きがい」の誤解が新入社員の退職を招く
例年になく優秀だと謳われた新入社員たちは、なぜ1カ月もせずに半分も辞めてしまったのか。その原因は「働きがい」にあると考えた。
実は「働きがい」という言葉は、リスクが高い。
なぜなら言葉の意味を、多くの人が誤解しているからだ。これは昨今、同じように使われるようになった「心理的安全性」にも言えることだ。
本来の意味をわからずに使用すると、大きな認識のズレとなり、トラブルを招くことになる。
実際に、社長や採用責任者、新入社員の先輩や上司も含め、ヒアリングしてみたところ、「働きがい」の真の意味を理解しているとは言いがたい状況だった。
「働きがい」と似た言葉に「やりがい」という言葉がある。
「やりがい」とは、困難を乗り越えて成果を出し、同僚やお客様から感謝されてはじめて「やったかいがあった」と思えるものだ。
「今回のイベントの集客、大変だったけど、会場が満員になって大盛況だったな」「はい。最初はすごく苦労しましたが、やったかいがありました」
このように使うものだ。
一方、「働きがい」は「やりがい」よりも抽象度が高い。
先ほどの例文の受け答えで、「はい。最初はすごく苦労しましたが、働いたかいがありました」とは、通常使わない。「やる」と「働く」とでは、対象範囲が違いすぎるからだ。例文として書くとするなら、次のようになる。
「入社して5年経ったけど、どう? 働きがいのある職場かな?」
「そうですね。入社して2年間は苦労の連続でしたが、どんなに大変なときも助けてくれる先輩がいますし、課長は厳しいですけど、おかげで随分と成長できましたし、働きがいのある職場だと思っています」
「働きがい」は、数年働いてからでないと味わえないものだと筆者は考えている。