そんな鍜地さんを奮い立たせたのは、やはりフラメンコの存在だった。

「抗がん剤治療中に踊ることは難しかったのですが、表現する人間であることには変わりないことを思い出したんです。それで、抗がん剤の副作用で抜けた髪にぺちゃんこになった胸のアーティスト写真を撮ってもらいました」

フラメンコダンサーの鍜地陽子さん(写真協力/KanaKondo)
フラメンコダンサーの鍜地陽子さん(写真協力/KanaKondo)
【写真】屋外で撮影した脱毛姿、「街中ケモ坊主チャレンジ」と名付け反響も

 ブログでアーティスト写真を公開すると大きな反響があった。さらに鍜地さんは街中で帽子をとって写真を撮り、SNSで発信した。

「隠していたときは人に会うのが嫌でたまらなかったんですが、見せるようになったら、不思議と心が落ち着いたんです。それから脱毛を隠すより、がんと闘った証しとしてポジティブに受け取ってほしいという思いも芽生えて。

 アーティスト写真の公開やSNSでの発信によっていろいろな方とつながることができ、すごく救われました」

消えない再発の恐怖、全部ひっくるめて私

 両胸を再建したのは、昨年の4月。シリコンインプラントという人工物を入れる手術を選択した。なお、2013年7月から、全摘した場合の再建手術は保険適用になっている。

「人工物が入っていると肩が前に引っ張られるので、半年間は腕が肩から上に上がりませんでした。再建手術から少したったころに左胸が下がっている感じがしたので、焦って先生に相談すると『ワイヤーブラで補正しましょう』と言われました。

 手術後はノンワイヤーを着けるのが一般的だと思っていたので、驚いて男性の先生に『どんなワイヤーブラがいいですか?』とか聞いちゃって(笑)。その後も痛みは続きましたが、順調に安定してきて、カッコいい胸になったので再建手術をしてよかったと思っています」

 現在は女性ホルモンを抑える薬を継続し、再発予防に備えている。

「がんに完治という言葉はありません。いつ再発するかもわからないから定期検診は怖くて仕方ない。それに、胸の再建といっても元どおりにはなっていません。

 乳頭や乳輪はつくっていないので、胸を見るたびにただの人工物だと思い知らされます。すると、『もしもあのとき』って自分を責めちゃう。でも、責めたっていいことなんかない。だからいっそ、がんの経験ごと糧にして精いっぱい生きてやろうと思っています」