執着を断捨離するのは無理

「執着を断捨離するのは無理だ」と思ってから10年後のことだった。

もったいない」が口癖の大きな敵の存在

「断捨離」という道を歩み始めたのだが、その前に大きな壁が立ちはだかった。それはお姑さんの存在だった。

「私がやっとの思いでゴミ袋に入れたのを“ちょっと失礼。あら、もったいない”と言って袋から出すわけね。まったく悪気がないからこそ余計に腹が立った(笑)」

 毎日がバトルの連続だった。姑の口癖は「狭い、狭い」だった。町家で間口が細いから余計だった。そして、モノが増えていくからますます狭い。彼女は、収納の棚を買えば、この狭さが解決すると思っているようだった。

「棚を置けば空間としては余計狭くなるのはわかっているのに。それがあるせいで狭くなっている。モノをなくせば広くなるよ。しかも、モノが選び抜かれれば、片づけるのも容易になるよ、と叫びたくなった(笑)」

「断捨離」が持つ本当の意味を伝えよう

 そして、やましたさんはこの考えを伝えていかなければ、と思うようになっていた。

「当時はヨガの教室をやっていたので、その生徒さんたちに伝え始めました。ちょうど姑とのバトルにも疲れて、夫の実家から離れた場所に家を建てて、『断捨離オープンハウス』と呼ばれて人が集まるようになっていった。そこでヨガだけでなく、“断捨離”の講座を始めたんです」

 ヨガのボディワークとともに、ヨガの精神性、そして住空間を通して「断って・捨てて・離れる」ということは伝えられるなと思ったのだ。

「だから、空間のヨガなんだよ、断捨離は。いろんなものを新陳代謝させていくことによって、出したら入れる、入れたら出す、呼吸空間に落としていくことが大事。ものを整理収納するよりももっと大事なことがある、ということを伝えだした。そしたら、人がどんどん集まり始めた」

 手に入れることも大事だけど、出すのが先だから循環が起こる。命のメカニズム、宇宙のメカニズムを絡めて話をすると生徒さんたちの顔が輝き始めた。そして収納苦、片づけ苦に悩まされていた女性に、断捨離でいろんな現象が起きていったのだ。

 すると、「友達にも聞かせたい、家族にも聞かせたい」「私たちの地元にも来てくれませんか」ということになって、いろんなところで話すようになっていった。

「そこで、東京にも呼ばれたんです。セミナーをやったら興味を持ってくれた作家の方が紹介してくれた、出版社の編集者が来てくれたんですね」

 その編集者だった三枝陽子さん(44)が当時を語る。

「字面のインパクトがすごいのと、とても初めての著書とは思えない深い内容に私も自分の生活を見直すきっかけにもなりました。やましたさんの凛としてスタイリッシュでありながら、気さくで温かい人柄にもとても惹かれました」

 この本は、毎週1万部ずつ増刷し、結局32万部発行。さらに文庫化され4万部出している。マガジンハウスでは、続編の『俯瞰力』『自在力』さらにムック本などで合計100万部以上を売り上げている。ところが、やましたさんは有頂天になるどころか、首を傾げていたという。

「“今こそ引き算なのになんでみんな気づいてないんだろう?”と不思議でした。引き算こそがアドバンテージだと。本が売れる売れないということ以前に、多くの人が気づいてないのが不満だった」

「断捨離」というワードは、瞬く間に日本中で知られることとなり「ダンシャリアン」という言葉も生まれる。一方で弊害もあった。

「今度は『捨』ばかりがもてはやされるようになった。“断捨離は捨てることじゃないんだ”と声をあげなきゃいけなくなったんですね」