松任谷由実からは“毒しか感じない”
時代に合わせて規制するというよりも、今の時代のお客さんに合わせて変化してきた。
「辛口を貫くぞって言って、ひどい目にあった人をたくさん見てきたんで(笑)。今の時代、辛口ってすごく難しい。ポロッと出る分にはかまわないんですけど、狙ってやると、引かれてしまう。今のお客さんは傷つきやすいんでしょうね。
それはまず自分で見に行ったライブの客席で感じました。特にノってる人がキツイことをやると、それまでどんなに楽しくても、ぴゅっと引いてしまう。だから、自分がステージに立つときは、気をつけています。引かれていいことはないですから」
モノマネする対象についても気を使う。
「権力者はおいしいんですよね。ちょっと過剰にデフォルメしてモノマネしても、引かれないから。難しいのは若い人や新しいアーティストをまねするとき。私のほうが年上でキャリアもある立場になっちゃったから、弱い者いじめみたいに取られてしまう。だから、権力者がもっと出てきてほしいんですけどね(笑)」
ちなみに、今までモノマネした相手から、面と向かって怒られたことはないそうだ。
「ユーミン(松任谷由実)さんには、“山田邦子のモノマネには愛があるけど、清水ミチコのモノマネには毒しか感じない”って言われました(笑)。自分では毒を入れてる感覚は……ちょっとはあります。ただうまいね、似てるねで終わらないように、ちょっとアレンジを入れちゃうんですよね」
ユーミンさんはそれでも受け入れてくれており、一緒にステージに立ったこともある。
「緊張しましたね。中学生のころからの憧れの存在ですから。そのとき、ユーミンさんからは“愉快犯”と呼ばれました。さすがに鋭いですね。そうなんです、私は毒を入れたいわけじゃなくて、愉快になるためにやっているだけなんです」
武道館ライブを始めて10年。好評につき恒例となり、コロナ禍も乗り越えて続けてきた。
「来年、武道館ライブが10回目となるので、そこに向けて頑張りたいというのが、これからのいちばんの目標ですね」
多くのお客さんを楽しませるライブをするには、いろいろ試行錯誤もあった。
「30年近く前の別のライブ会場でのことですが、『オペラ銭形平次』という凝っていて時間もかかる大ネタを作ったことがあって。準備していくうちにイマイチだなぁと思ってきたんですけど、一生懸命作ったからと、そのままライブでやっちゃったんです。
そしたら、始めた瞬間にダメだとわかったけど、そのまま30分間やり続けるしかなかった。あのときの地獄ったらなかったですね。たまたま、くりぃむしちゅーの有田哲平さんと上田晋也さんが見に来てくれていて、いまだにからかわれます(笑)。それからは“せっかく作ったのに”とか“もったいない”とか思わず、潔くネタを変えるようにしています」
異常に緊張する精神面も、いろんな工夫でコントロールしてきた。
「武道館ライブを始めたころは、ステージで『あれ? 私、何をしようとしてたんだっけ?』と真っ白になったこともあったんですけど。そういうときは、自分の状態を口に出したほうが救われるんですよね。お客さんに『私は何をしようとしていたと思う?』と投げかけてクイズにしちゃったりとか。
すると、お客さんも楽しめるし、私も楽だし。モノマネが似てないときも、気にしてたんですけど、最近は似てなくてもいいじゃんって感じ。お客さんも別にうまいモノマネを聞きに来ているんじゃなくて、ちょっと変で面白いおばさんを見に来てるんだからと、思うようになって、それから空気が良くなった気がします。これも場数を踏んだおかげだと思いますね」