目次
Page 1
ー 異例のキャリアを持つ公衆衛生の専門医・伊藤明子さん
Page 2
ー 異国の地で受けたカルチャーショック
Page 3
ー 就職が決まらず、フリーランスの通訳に
Page 4
ー 人生の“第2ステップ”医療の道へ─ ー 学生、仕事、母親の三足のわらじを履いて
Page 5
ー 唯一のつまずきがあった ー “誰ひとり置き去りにしない”の精神で
Page 6
ー 人が健康であるため、どうすればいいのか ー 承認欲求は不健康
Page 7
ー これからの展望は

 

「認知症の予防は、何歳くらいからしたほうがいいと思いますか?」

 そう人懐っこい笑顔で尋ねて、スタッフが「40歳くらいからですか」と答えると、

「そう思いますでしょう~! だいたいの方はそれくらいとおっしゃるんですけど、私たちの答えは、『生まれたときから』なんです。骨粗鬆症の予防も同様です」

 と朗らかに話すのは、赤坂ファミリークリニック院長の小児科医で公衆衛生の専門医でもある伊藤明子さん(61)。当時の『林修のレッスン!今でしょ』(テレビ朝日系)や各局の情報番組などテレビ出演も多く、『医師が教える子どもの食事50の基本』(ダイヤモンド社)が6万部を超えるベストセラーとなっている注目の人だ。

異例のキャリアを持つ公衆衛生の専門医・伊藤明子さん

よどみなく自身の半生を語ってくれた伊藤さん。アグレッシブに人生を謳歌する、そのエネルギーのもとは?の問いに、困ったような笑顔で「なんでしょう……、特にないんですよ」
よどみなく自身の半生を語ってくれた伊藤さん。アグレッシブに人生を謳歌する、そのエネルギーのもとは?の問いに、困ったような笑顔で「なんでしょう……、特にないんですよ」

 世の中には玉石混交の食情報があふれているが、本書は医学的データと臨床経験をもとに、子どもが脳と身体のために食べるべきものをわかりやすく紹介しており、大人も活用できる情報が詰まっていると話題だ。伊藤さんが滑舌よく続ける。

「私たちは両親からの遺伝情報に加えて、空気や水、環境、食べ物からつくられています。“食”は健康の土台ですから、何をどう食べるかで、身体と心、脳の状態、性格も変わってくるんですよ。ですから“食”ってとても大切なんです」

 伊藤さんは天皇陛下(現・上皇さま)や歴代の総理大臣、各国の国賓の同時通訳者として活躍したのち、2人の子育てをしながら40歳で医学部を受験し、医師になったという異例のキャリアの持ち主。東大大学院で公衆衛生学を学んだ後は、子どもの食について研究を続け、赤坂で小児科・内科のクリニックを開業している。現在も医学系の会議を中心に通訳の仕事も継続中だ。

 クリニックを訪ねるまでは、さぞかし近寄り難い雰囲気の人なのではと緊張したが、出迎えてくれたのは、拍子抜けするほど親しみやすい女性だった。「狭いですけど、どうぞ、どうぞ~」と面談室に通してくれた。

 伊藤さんが東大大学院で院生として在籍していた、研究室の元教授秘書も、伊藤さんのことを才能にあふれているのに、決して偉ぶらない人と話す。

「バリバリでアグレッシブな人生を送られているはずなのに、なんとも大らかで、接する人を焦らせたり萎縮させたりすることがないんですよ。そして今からでは遅い、などという線引きを決してしない“限界知らず”の方です」

 そう言わしめるゆえんは何か。伊藤さんの生い立ちからたどってみよう。