紫式部は、男性との恋愛より女性同士の関係を好んだともいえる。若き日には、早逝した姉を慕うがあまり、妹を亡くした境遇の年上女性を見つけ、疑似姉妹として交流した。また、『百人一首』に収められた「巡りあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな(要約:やっと巡り逢えたのに、あっという間に雲の中へ消えてしまう月のように別れなければならなくて残念)」という歌も、実は女友達との再会時に詠まれたもので、男性に向けた恋歌ではない。
当初は宮廷での仕事を嫌がっていたものの、そのうち職場に入り浸るようになったのは、同僚に好みの女性が多かったからだと考えられる。お気に入りの1人が、宰相の君というぽっちゃり美少女で、顔を隠して寝ていた彼女から掛けふとん代わりの着物を引きはがし、そんな彼女の「照れて赤い顔がとてもかわいい」という感想を『紫式部日記』に記した。
小少将の君という女性も「恥ずかしがり屋で子どもっぽい性格」ゆえに、紫式部のお気に入りで、彼女とはよく同室に寝泊まりし、他人を寄せつけないほどの仲のよさを周囲に見せつけていた。2人の部屋を訪れた道長から「どちらかが知らない男を連れ込むようなことがあっても、驚かないようにね」と、からかわれてしまったことがある。しかし、紫式部は「私たちに秘密はない」と答え、この対応からも、道長と彼女は男女の仲ではなかったと考える研究者もいる。
紫式部の好みは、ほんわかとしたお嬢様で、事あるごとに知性をアピールするタイプ……例えば清少納言のような女性は大嫌いだった。そんな清少納言の未来はロクでもないことになると、予言のようなことまで言っている。清少納言の悪口は、ひとり娘の賢子が、紫式部に似て賢く、亡夫・宣孝ゆずりの社交性まであったので、人前でインテリ女として振る舞えば嫌われると教えるためとの説もある。
しかし、紫式部は総じてインテリ女性が嫌いで、溺愛する弟・惟規の恋人で、斎院の中将という女性のことも「自分だけが思慮深く、世間の人を見下しているように思えるところが、無性にむかついて憎らしい」と酷評し、交際に反対していた。これは紫式部自身が、彰子のもとに初出仕した際、同僚女性から嫌われた理由と同じで興味深いのだが、彼女には同族嫌悪の傾向があったのかもしれない。