子どもの成長に伴い、再開したのがもともと好きだった街歩きだ。昭和の香りが残る場所、スナック街……心惹かれてスマホのシャッターを切るのは、決まって人生の裏街道のような場所だった。紅子さんは写真をインスタに投稿するようになった。
「風俗嬢だった過去を後悔したくない」
「テキストを書くためにその場所にまつわる歴史などを調べると、赤線や青線、遊郭の跡地であることが多かったんです。そんなことを繰り返すうち、『そういった場所の歴史をひもといて、何かしらメッセージのあるものとして伝えていきたい』という思いが募っていったんです」
フォロワーが増えるにつれ、「スマホで撮っています」とは言いづらくなってきた。そこで、2年前に一眼レフを購入。最初はシャッタースピードや露出が何を指すのかもわからなかったが、ユーチューブを見て勉強した。
時を前後して動画撮影や編集も同じようにして学び、チャンネルを開設して色街の情報を配信し始めた。
「撮影も都内、関東近郊、東北や四国など徐々に遠方にも足を延ばすようになり、そのあたりから『写真展をやりませんか?』とお声がけいただくようになったんです。最初はSNSで発表できるだけでもありがたいし、写真展なんて恐れ多いと思っていましたが、いざやってみると、いろんな方と交流が生まれて」
彼女が撮る色街は、キッチュな看板や豆タイル、アールデコ調の意匠など、建築やデザインとしての美しさを秘めているが、刻み込まれているのはそれだけではない。
「写真を撮るときは、その場所に刻み込まれた営みの跡を意識しています。また、昔は身寄りのない遊女がそこに売られ、ご苦労を重ね、葬られてきた。そういった歴史があったことも感じ取っていただきたいです」
そんな写真をたっぷり収めた写真集『紅子の色街探訪記』の帯には「風俗嬢だった過去を後悔したくない…」とある。
「風俗嬢だったころ、この世に自分の居場所はないと思ってつらい時期もありました。けれど、子どもを育てるとなったらスキル的なものを身につけ、普通の仕事に就くことができた。もちろん、守るべきものができて強くなった部分もあると思います。
だからといって過去のことを後悔したって、時間は巻き戻せません。そんな私が赤線や遊郭の跡に惹かれて写真を撮るようになった。これをお導きというと大げさですけど、過去の経験があるから今伝えたいことがあり、それが今の活動につながっている。ですから、過去を後悔したくないんです」
取材・文/山脇麻生