寂しさも面白さも込めながら、絶妙なトーンで進行していくのは、ナレーションの小泉今日子と相方の土屋伸之。
師匠たちは積み重ねてきた面白さがある
「『プロフェッショナル 仕事の流儀』みたいにしたいなと思って。あの番組もナレーション2人じゃないですか。というのと、制作会社の方が小泉さんと仲が良くて、ナレーションでご協力いただけることは先に決まっていたんです。土屋は、僕が監督なのでどこかで相方を入れたいなと思って。ナイツで映画の宣伝をしていく上で、コンビで熱量が違うのも嫌ですし、土屋も(ナレーションが)得意で、声もいいですから」
映画には、塙が漫才協会の芸人を知ってもらうために始めたYouTubeチャンネル『ナイツ塙会長の自由時間』内で、師匠にVR体験をしてもらったり、ドッキリを仕掛ける様子も収められている。
「僕らがコンビを結成した次の年にM-1が始まったんですけど、それ以降に出てきた芸人は、賞レースで勝つためのネタ作りをするようになったじゃないですか。4分の間に何個ボケよう、みたいな。それはそれでいいんですけど、漫才協会の師匠たちは賞レースがない時代に育っているから、そもそもの漫才に対する考え方が違う。師匠たちは、テレビでひと言スパンと言う技術はあまりないですけど、生きざまというか、何十年も積み重ねてきた面白さがある。そこは動画でも、映画でも伝えたい部分です」
個性的な師匠が次々に登場する中で印象に残ったのは、芸人仲間の間でも姿を見た者はほぼいないという幻の師匠、高峰コダマさん宅を突撃するシーン。
「あのシーン、ヤバいですよね。もともと映画に入ってなかったんですけど、やっぱりあの人のことも入れたいと思って、急きょカメラを回しました。コダマ師匠は謎が多いんですけど、すごくきっちりされていて、後日『どうもありがとうございました』ってどら焼きが家に届いたんです」
離婚後もビジネス夫婦漫才師として舞台に立つ、はまこ・テラこの私生活に迫ったパートもいい。この2人、離婚後も同じ部屋に住み、同じ布団で寝ているという。
「あの2人も訳がわからないですよね。でも、嘘がないから面白い。特に、はまこって男性が面白くて。部屋の壁に『テラこを好きという気持ちを忘れない』って張り紙が張ってあるんですけど、張らないと忘れちゃうのかよという(笑)。そういった細かい部分も面白いので、5回ぐらい見てもらえたらと思います」
枠に収まらない芸人たちの人間的魅力を語る塙。一方で、コンプライアンスの波が押し寄せている今のテレビのお笑いをどう見ているのだろう?
「やりづらいことも増えましたが、それより芸人が辟易しているのは、ネットニュースや週刊誌に発言を切り取られること。そこに悪意のある見出しをつけて、ページビューを稼ごうとするじゃないですか。先日もラジオで、ハリウッドザコシショウがテレビ神奈川の番組枠を買って、それを僕が見たって話をしたんですよ。
『あれ訳わかんないんだよ。見るに堪えないよ』って、熱を込めて面白くしゃべったのに、『塙が見るに堪えないと言った』みたいな冷たい記事になっていて。そうすると、ラジオを聴かずに記事だけ読んだ人が、『おまえが偉そうに言うな』とSNSに書き込む。最初は芸人間のいじりだったものが勝手に炎上する。みんなが嫌な気持ちになるだけじゃないですか」