シニアは運動による骨折リスクに要注意
では、シニア世代が運動によって負ってしまうケガにはどのようなものがあるのか。
「すべての運動に共通してリスクがあるのが、“骨折”です。私が診察した患者さんの中には、ジムでエクササイズをしていた際にカーペットで足を滑らせてしまい、勢いよく右手をついたところ手首の骨を骨折してしまった方がいました。
高齢になると筋肉や骨の身体機能が弱くなり、バランス感覚も低下するので、運動中に骨折するリスクが非常に高くなります」
高齢者がフィットネスジムで負ったケガで、一番多く報告されているのも骨折。広背筋を鍛えるマシンで胸を押しつけて両手を動かす運動を行ったところ、6日後に胸骨が骨折していると判明した60代女性のケースもあったという。
「特に女性は閉経後、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減ることで骨密度が低下しやすく、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になっている人も多いです。
日本の50歳以上の女性の3人に1人は骨粗鬆症になるといわれているので“自分の骨も弱くなっている”という認識をしっかりと持って、転倒のリスクがある運動は避けるのが良いと思います。
骨粗鬆症の方が転倒して尻もちをつくと、背骨がつぶれたように折れてしまう圧迫骨折の危険も」
骨折に次いで注意をしたいのが、“ひざ”を痛めてしまう運動だという。
「健康寿命に大きく関係するといわれている部位は足腰。自分の足で生涯歩けることで、老後の生活の質は格段に上がります。そのため下半身の筋肉や足腰を鍛えようと、間違ったスクワットや長距離のウォーキングをしてひざに負荷をかけてしまう人も多いのです」
筋肉や骨密度が加齢によって低下するように、ひざなどの関節にある軟骨も年齢と共に弾力を失い再生しづらくなっていく。
「加齢で弱ったひざに負荷をかける運動をすると、ひざの靭帯を損傷するケガにもつながります。また、女性だとダイエットのためにウォーキングをしている人もいるかと思いますが、肥満の人はひざにかかる負担が大きく、クッションの役目を果たしている軟骨を余計にすり減らしてひざ痛を引き起こします。
50代、60代で無理な運動をしてひざに負担をかけて、60代後半、70代になったときには手遅れ……というのは避けたいですね」