『日本語ワカリマセン』『会長は外国かぶれ』

 同じく課題となったのがゴミ出しだ。分別の仕方がわからない住人が可燃不燃入りまじったゴミを捨て、ルールを教えようとする日本人住人に「日本語ワカリマセン」と答える。すると、「あの人はダメだ」とレッテルを貼る住人が出てくる。その負の連鎖を、遠藤さんは一つひとつ解きほぐしていった。

よく考えてみると、『日本語ワカリマセン』と日本語でしゃべれるってことは、まったく理解できないわけじゃないんですよね。嫌なことを避ける方便として言ってるんだとわかってからは、諦めないで、心が通じるまでコミュニケーションを取り続けようと皆で話してね。結果、全員とはいわないまでも、心を開いてくれるようになった方が何人もいます。

 ハグの問題もありました。南米の方は会うとハグだし、小さな子も私を見ると『遠藤サーン』と走ってきてハグしてくれる。私もハグを覚えなきゃと思って、あるとき、エレベーターホールでばったり会った方とハグしていたんです。すると、それを見かけた日本人の方から、『会長はいつから外国かぶれしたんだ』と批判がありました

 人は未知のものに対して拒否反応が出やすい。しかし、一緒に自治にあたっていた4人の仲間と時間をかけて、先のイベントや日常的な声かけなどから接点を増やし、摩擦を減らしていった。そんな仲間も今は亡くなり、残っているのは遠藤さん一人。しかし、今は外国人たちが一生懸命協力してくれているという。

 現在、初期からいちょう団地に住んでいた日本人住民はそのまま持ち上がり、高齢化が進んでいる。一方、新規入居者は若い外国人世帯が多い。

私と同じぐらいの年齢で、『もう死んでもいいんだよ』なんて言っていた一人暮らしの方がいたんですけど、その方にベトナムの子たちが『シンチャオ、シンチャオ(挨拶を意味するベトナム語)』って声をかけて、ウチでお茶を飲んでいけとか言ってくれるわけです

 高齢者と若い世代の小さな交流に目を細める遠藤さんだが、20年前に永別した奥さんからは、「そんなに自治会の仕事ばかりするなら離婚します」と言われたことも。それでも日本人住人と外国人住人の懸け橋になってきたのは、こんな理由がある。

「なぜか?と聞かれると好きだからとしか言いようがないんですけど、中学生のころから英語も外国人のことも好きで、他の科目は一切勉強しなかったんです。先生がよかったからかな。将来は英語を使っていろんな仕事がしたいと思っていたんですけど、それは叶わなかった。もうこの年ですし、来年は会長職を辞するつもりです。そこで、今までのことを振り返ってみたんですけど、当初の夢は叶ってるんですよね(笑)


取材・文/山脇麻生