特別養子縁組で男の子を育てるママに

35歳のときに養子の息子を迎え、親子3人の生活が始まった
35歳のときに養子の息子を迎え、親子3人の生活が始まった
【写真】35歳のときに養子の息子を迎え、親子3人の生活が始まった南谷さん一家

 特別養子縁組とは、養子となる子どもと実親との間の法的な親子関係を解消し、養子と養親との間に親子関係を成立させる制度だ。特別養子縁組を行うためには、特別養子縁組を執り行うNPO法人で紹介された子どもと縁組成立前に子どものいる施設で数日生活を共にし、その後、家庭での生活の様子を家庭裁判所に認めてもらう必要がある。

 南谷さん夫婦は、児童相談所で3回ほど子どもの紹介を受けたが、そのときは縁がなかったという。

「夫は私よりも6つ下なのですが、『突然子どもができても父親になる自信がない』と話していました。時期尚早だったんです。その後、NPO法人団体の面接を夫婦で受けに行ったのですが、代表の方に『あなたみたいな自信家で、気が強い人には子どもは育てられません』と言われたのです」

 女性として自信をなくしていた南谷さんは、自信家と言われることに納得できなかった。

「NPOの代表は何もわかっていないのにひどいことを言う人だと思いました。そのときはカチンときて『じゃあ子どものことは諦めます』と言って帰ったのです。でもあとになって考えれば、当時は『子どもは一緒に暮らせばなんとかなる』という傲慢な考えがあったように思います」

 厳しいことを言われて子どもには縁がないと思っていたが、それから1週間後に連絡があった。紹介された乳児院に行くと、シスターに抱かれてきた子どもは男の子だった。

「実は私たちは女の子が希望だったので、そのときはショックでした。でも、生後8か月のその男の子は、初めて会うのにニコニコ笑っていて、もうその瞬間に『ああ、私たちを待っていたんだね。じゃあ一緒に帰ろうね』という気持ちになったのです。

 それから3日間、研修として子どもと一緒に過ごすのですが、子どもを抱っこしたこともない私たちが突然、母親と父親になるわけですから、人生であんなに疲れたことはないというくらい疲れたのを覚えています。乳児院には泊まれないので、夜は近くのホテルに帰るのですが、帰るときにその子が一生懸命、手を振っているのを見て、『この子と親子になれる!』と夫と確信しました」

 3日間の研修が終わって、自分たちの息子として育てる決意をした南谷さん夫妻。息子と一緒に施設を出発するときの光景は今でも忘れられないという。

「私たちの車の周りに施設の子どもたちがいっぱい集まってきて、『新しいお父さんとお母さんができていいなあ』とみんながうらやましそうにしているんです。子どもたちはいろんな事情で親と離れて暮らしていましたが、みんなが養子として引き取られるわけではありません。つらい境遇の子どもたちを見て胸が詰まりました。このときに見た光景は、のちに子ども食堂を開くきっかけのひとつになっています」