勘違いしやすい五十肩との決定的な違いは……
件(くだん)のA子さんは、ずっと続いていた肩の痛みを、年齢的にも“五十肩”だと思い込んでいたという。四十肩や五十肩とは何が違うのだろう。
「まず石灰沈着性腱板炎による痛みには、急性のものと慢性のものがあります。急性のものは激しい痛みが急に生じ、わずかでも肩を動かすことができなくなります。特に夜間に痛みが強くなり眠ることさえ難しいほどです。
慢性の症状では、痛みはそこまで強くなく肩や腕は動かせるけれど、真上に上げる途中で痛みやひっかかりを感じます。一方で五十肩は、腕を上げようとしても途中でカチッとかたまってしまい、それ以上、腕が上がらないのが特徴です」
石灰沈着性腱板炎の慢性期の場合、五十肩と勘違いしやすいが、痛みがあっても腕が動かせるか否かがひとつの目安になりそうだ。
自己判断で五十肩と思い込んでいたA子さんは、周囲の人の経験談などからそのうちに治ると思い、病院を受診することもなく痛みを放置してきた。さらに、運動不足が原因かもしれないと考えて、痛みを押してストレッチやラジオ体操を行っていた。
「炎症が強い時期に無理して身体を動かすと、炎症を悪化させるおそれがあります。また、四十肩や五十肩だと思っていたら、腱板断裂など、別の疾患だったというケースも。症状だけで病気を区別するのは難しいので、まずは受診をおすすめします」
エックス線撮影すればすぐに診断がつくため、痛みをガマンしたり、くよくよ悩んで過ごすのはもったいない。
「治療では、急性で痛みがひどいときは痛み止めの薬を飲んで安静にしてもらいます。症状を抑えるステロイドの注射を打つ場合もあります」
そもそも急性の痛みは、石灰の一部が溶け出して身体に吸収されるときに起こる炎症なのだそう。吸収されてしまえば炎症は治まり、痛みも治まる。そのため、基本的に自然によくなることが圧倒的に多いという。
「頑固に痛みが残る方や、慢性的な痛みが気になる方は、石灰のボリュームを減らすために、石灰に針を刺して腱板の外に石灰を流れ出させる“乱刺法”という治療を行う場合も。また、衝撃波を当てて疼痛(とうつう)を緩和させる“体外衝撃波”という最新の治療法もあります」
ほかにも内視鏡を入れて石灰を掘り出すような施術など手術で取り除く方法もある。昔から患者数も多いうえに、“肩”という生活に支障をきたしやすい部位のことでもあるため、新しい治療法も発展している。