認知症の疑いがある場合、まず何科の病院を受診すればよいのか。
「一般的には脳神経内科、脳神経外科、精神科を受診するのでしょう。望ましいのは日頃からかかりつけ医を持ち、定期的に身体を診てもらうこと。変化にいち早く気づけますし、必要であれば専門医を紹介してくれます。
それが難しい場合は、地域包括支援センターに相談するのがよいでしょう。看護師もしくは保健師、社会福祉士と主任ケアマネジャーらがいるので、医療や介護に関する専門的な相談ができます」
万が一、誤診だった場合は大きなリスクが伴うこともある。
「誤診をされても、気づくことはなかなか難しい。診断を信じ、間違った薬を何年も飲み続け、実はまったく効かないどころか、薬が認知機能を悪くさせることもあります。診断に疑問を抱く場合にはセカンドオピニオンを利用してもよいでしょう」
認知症ではない原因で多いのは薬の副作用
普段飲んでいる薬が脳に影響し、“認知症もどき”の症状をもたらすことも。大石さんによると、認知症を疑って診察を受けに来た人で、薬が原因だったということが一番多いそう。
「シニア世代の方は複数の薬を飲んでいることが多く、その複合的な影響が原因という場合があります。薬局で買える風邪薬、抗アレルギー薬、胃薬や咳(せき)止め、睡眠改善薬にも、もの忘れや意識障害を引き起こす成分が入っている場合はあります。
睡眠薬や抗不安薬に含まれるベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動薬、またガスターなどのヒスタミンH2受容体拮抗薬、過活動膀胱(ぼうこう)治療薬や咳止めに含まれる抗コリン成分が原因だったということもあります」
これらの薬は頭をぼんやりさせ、深刻になると軽い意識障害を引き起こすことも。せん妄状態(変動する意識障害)にまでなると、夜眠れずに落ち着かずうろうろしたり、怒りっぽくなったりと、認知症による精神症状と誤解されることがある。それが原因であれば、薬をやめるとすっかりおさまるそう。
「膠原(こうげん)病や自己免疫疾患の薬として使われるステロイド剤は、行動に変化を起こすこともあります。またパーキンソン病の治療薬の一部は、衝動のコントロールが難しくなることがあります。
今までギャンブルに全く興味のなかった高齢の男性が、急に毎日パチンコに行きだして、ご家族に認知症があるのではと疑われましたが、実際はパーキンソン病治療薬の副作用によるものでした」
ほかにもアルコールによる影響だった、ということも多い。
「特に定年退職後の男性は、会社という居場所がなくなり、孤独感から昼間から飲み続ける方もいます。大量のお酒によってもの忘れが増えるので認知症と疑われてしまう。認知機能が低下すると、それまでできていたことも難しくなり、自尊心が傷つき、さらにお酒に頼ってしまうという悪循環も考えられます」