高級とはいえ無意味な設備も
超高級老人ホームは前述したとおり、設備などのハード面が豪華で充実している。セレブな老後生活をうらやましく思うだろう。しかしその価値には疑問が残る点も。
「今回取材したある施設のホールには、世界三大ピアノに名を連ねる2台のグランドピアノが置かれていました。モデルによっては1台2千万円から4千万円する代物です。ただ、その希少性が居住者にわかるのかどうか。私を含め、音楽に精通していない人にとっては、ただのピアノにしか見えないのでは……」
また、茶室を設ける施設では、せっかくの茶室が無意味な空間に。
「高齢になると、茶会を催しても足が痛くなって正座はできない。結果、茶室として使わなくなっていました。トランプなどをしているようです」
一方でソフト面のサービスの価値にも疑問は山積する。高級老人ホームと一般的な老人ホームでソフト面はほぼ変わらないと甚野さんは語ったが、それはいざというときの介護サービスの体制を指す。
「介護保険法では通常3人の入居者に対して介護職員1人という基準が定められています。この基準を上回る人員を配置して手厚い介護体制をアピールする施設が多かったのですが、一般的な老人ホームでも同様の体制をとっているところはたくさんある。また、入居者に対する介護職員の割合が高かったとしても、介護サービスの質が高いかどうかは別問題でしょう」
施設で最期を迎えるときの現実も知っておきたい。超高級老人ホームには自室で看取りまで可能なところもあるが、それは全体の一部。
「介護度が高くなった居住者は多くの場合、介護棟と呼ばれる建物の部屋に移されます。介護棟は病院のような環境下で、そこで最期を迎えることになる。豪華な住まいで快適な日々を送っていても、最終的には病室に追いやられてしまうわけです」