「産んでごめんね」と言わないで
「口唇口蓋裂の当事者や、その家族が集まる交流会をオンラインと対面で行っています。そこで一番衝撃を受けたのは、どの親御さんも“産んでごめんね、私のせいで”とおっしゃること。
私自身はそういう言葉を両親からかけられたことがなかったですし、小さなころから“かわいいね”と愛情豊かに見守ってもらったので、そんな発想があるのかと。
当事者としては病気を抱えているのが当たり前の状態なので、“ごめんね”という言葉に、自分を否定された気がするんです。“ありがとう”や“大好きだよ”という言葉で私たちの存在を認めてほしいよね、とみんな言っているんですよ。
これからは講演会を開いたり本を出版したりして、もっと多くの方に病気について考えるきっかけをつくっていきたいです。ほかには当事者や親御さんが悩んだときに、問い合わせができるホットラインも開設していきたいですね」
現在は学童保育の児童指導員としても働き、草の根活動を続けている。
「もともとは美容関係の仕事に就こうとメイクスクールに通うことも検討したのですが、“美を追求する場所なので……”と病気の私を拒絶するような心ない言葉をかけられて。コスメ販売の面接へ行っても、見た目で落とされたと感じる瞬間があり、傷つきました。
そんな中で、大人に病気を啓発することも大事ですが、まだ固定観念のない子どものころから自分の姿を見て、この疾患を知ってもらうことが大切なのではないかと思ったんです。500人に1人が罹る病気ということは、小学校に1人はいるはず。どこかで出会う可能性があるわけですから」
多くの苦難を乗り越えた今だからこそ言えることがある。
「この疾患は自分にとって……なくてはならないものになりました。説明は難しいのですが、今では私の代名詞だと思っています。病気に泣かされることが多かったけれど、口唇口蓋裂になっても、良かったな、と思える人生を送りたいです」
小林えみかさん●重度の口唇口蓋裂で生まれ、自身の闘病体験をブログやメディアで発信し、2015年に口唇口蓋裂支援団体『笑みだち会』を設立(2020年NPO法人化)。顔の傷で心に傷つかない社会を目指した啓発や当事者間交流の活動に取り組む。
取材・文/植田沙羅