裏切りのライブ当日ボイコット

高校卒業後、製本会社に就職。メンバーに就職したことを隠し、親にも会社にもバンド活動を隠しながら働いたが、ライブのたびに会社を休み、居づらくなって、1年で退職する。
そして、スーパーマーケットで夜勤のアルバイトをしながら、ライブハウスに出演し続ける日々が始まる。「弟の部屋がないから出ていってほしい」と言われ、実家のそばに風呂なしアパートを借りて、風呂だけ入りに実家へ帰る生活。頑張って作った曲も『これだ!』とは思えない。バンドメンバーともうまくいかない─。
クリープハイプは、尾崎以外のメンバーが定着しない、という問題を長年抱えていた。
「メンバーに尊敬されていなかった。そもそもこっちが尊敬できていなかったんです。それで、3人でやっていたから、いつも2対1になる」と、尾崎。
ライブ当日にメンバーが来なかったこともあった。リハーサルの時間に2人とも現れず、出番の時刻になり、出演はキャンセル……。
「客どころかメンバーも来ないんじゃ話にならないね」と、ブッキングマネージャーに嫌みを吐き捨てられ、銀行のATMへ。全財産を下ろしてノルマを払い、メンバーのアパートに向かった。アパートの前に着くと、もうひとりのメンバーの自転車が堂々と止めてある。
この日のことを後年、尾崎は自伝的小説『祐介』の中でこう描写している。
(一部抜粋)
《ドアノブを回してしまえば、すぐに最後の答えが出るだろう。心のどこかでまだ2人を信じているということが情けない。頭を打ちつけるたびに、ドアが音を立てる。音楽にこんなにも未練があることが恥ずかしくて、照れてはにかむように頭を打ちつけた》
エロいことを切ない気持ちで歌いたい

ひとりきりになった。別れたり戻ったりを繰り返していた彼女との関係にも終止符を打ち、国立へ引っ越す。
メンバーがいないので、弾き語りライブをやっていた尾崎は、下北沢の『デイジーバー』というライブハウスの店長に「うちにも出てくれ」と声をかけられる。
「それでライブをやったら、案の定お客さんも全然いない。でもライブが終わったら、そのライブハウスの社長が、泣きながら話しかけてくれて。『毎月出てくれ、ノルマは一切いらないから』って。初めて自分の歌で泣いてくれる人がいたことに、びっくりして」
その社長がマネージメントを申し出て、事務所に所属。クリープハイプは、またメンバーを探して3人になり、インディーズで全国に流通するCDを、初めて制作する。
3年活動したが、またメンバーが脱退。3度目のひとりになってしまう。再び弾き語りで活動をつないだが、モチベーションが湧かない。
ライブ当日の早朝、新曲でもやらないと意味がない、と寝転がってギターを弾いていたときのこと。
「セックスワーカーを主人公にした曲を作ろう」という考えがふと浮かび、珍しく曲も歌詞もスルッと出てきた。
「エロいことを題材に曲を書くなら、コミカルなものにしなければいけない、という暗黙の了解がある気がしていて。それが嫌だったんです。もっと切ない気持ちで、疾走感のある感じで歌いたい。そう思ったときに、これはまだほかの人がやっていないし、自分がやる意味があると感じました」
その曲が、後にメジャーデビュー・アルバムにも入った『イノチミジカシコイセヨオトメ』である。
「自分の中に芯みたいなものができて。人の人生を語るように……その人の感覚を想像して歌うことで、自分のことを歌う以上に饒舌になれるというか。知らない人のことを表現するときは、思いっきり振りかぶれるので」