その後、20歳で主演映画『三本木農業高校、馬術部』でデビュー。日本アカデミー賞新人賞を獲得した。しかし、’12 年9月に改めて芝居を学ぶためにニューヨークへ留学。向こうでの生活は、初めてのひとり暮らしや語学の壁などもあり厳しい毎日だったが、こんなうれしいことも。

「ニューヨークのストリートで絵を売っている無名の画家を通して、ハリウッド女優のリヴ・タイラーが近くに住んでいることを知りました。会えたりはしなかったけど、その画家の作品を彼女も持っていることを知って、より好きになりました」

 米ロックバンド『エアロスミス』のボーカル、スティーヴン・タイラーを父に持つリヴ・タイラー。文音は、似たような境遇ながらも自分の人生を生きている彼女が、昔から憧れの人だという。

 ’14年5月に帰国すると、芸名から"長渕"をとった。自分の気持ちを仕切り直したかっただけで反発心ではない。

「両親はふたりともすごく愛情をかけて育ててくれたので、感謝しています。母は私が生まれてからいつも家にいてくれたし、父も授業参観などは必ず来てくれました。両親がこの業界にいながらも小さいころに寂しい思いをしなかったのは、幸せなことですよね」

 昔は父母という面でしか両親を見ていなかったが、現在は仕事というフィールドでも、意識するようになった。

「私にとってふたりは、生まれたときから普通の父と母でした。だけどいつからか、ステージ上に立った父をアーティスト長渕剛として見るようになり、母の作品を見ているときに志穂美悦子という女優としてとらえるようになりました。それに気づいてからは、仕事のうえでも先輩として尊敬しています」

 最後に、今いちばん楽しいことを聞いてみると、"お芝居しているとき"とキッパリ。

「これまでに2回ほど舞台の仕事もしましたが、また挑戦してみたいですね。いずれは"この役は文音にしかできない"と言っていただけるような女優になりたいです」

 そう語る瞳は熱く、力強い光に満ちていた─。