ヒット仕掛け人が語る、芸人の育成方法とは
——芸人さんを育てていく上で何か意識していることってありますか?
リッキー「“人に分かることをやりなさい”と言っています。これはいろんなことに当てはまるとは思うのですが、笑わせる以前に重要なこととして、伝わるかどうかということです。要するに“君は何をやるんだ?”と聞いたら“おもろいことをやります”というのは違う。
ギャグにしてもネタなんてものは、それぞれの芸風でいくらでも変わります。だけど、お笑いの手法は、まずフリがあって、それがズレる。そして、そのズレを“おかしいよ、それ”って指摘するっていうワンパッケージしかないんです。それにプラスアルファで肉体が乗っかるくらいでしょうか。
その前提に立つと“さあ何が大切ですか?”というのは見ている人に伝わるかどうかなんですよ。ものすごいおもろい芸なんだけど、やってみたら全然伝わらないのもあるし、それは何故かって言うとパフォーマンスが悪い。ひょっとしたら声が小さいのかもしれないし」
小林「リッキーさんがスゴいのはそういうとこじゃないですかね。よく芸人さんを指導するときに型にはめちゃう人っているじゃないですか。“こう言うと絶対に面白い”とか“こう言わないと面白くない”とか。リッキーさんは本当に頭が柔らかいですよ。
表現の仕方とか、やっていることに対して“あ〜、それ面白いんじゃない”って。もともとの芸風を無理矢理変えたりしないんですよね。好きにやらせる。“でもこんな感じのほうがちゃんと伝わるよ”とか“もっと言っちゃえば!? もっと振り切っちゃえよ!”とかっていう教え方なんですよね」
——コーチングの仕方ですね。
リッキー「表現はみんなの持ち物ですからね。だから、ある意味、僕が“それはないんじゃない?”と言ったら絶対にダメな場合なんでしょうね(笑い)。あんま言わないもんね。
たまにひどいのを見ても“そうか〜それをやりたいのか。それをやるには〜”というとこから考えるね。やってみて“やっぱ無理だったね”というのももちろんあるんですよ。でも、それはそこまでのネタではないし、そこまでの表現力がなかったというだけで。悪い条件が両方重なると伝えたいものも伝わらないですよ」
——どんな仕事をしていても一緒だと思うんですけど、伝える力って大事ですもんね。
リッキー「コント、漫才にしてもネタは面白いんだけど、何がダメなんだろうというとき、初心者の芸人さんに伝えているのは“今やっていることを3歳の子に見せていると思ってもう一回やってもらえる?”“じゃあ今度は80歳の少し耳が遠くなったおじいさんに見せていると思ってちょっとやってみて”、それでもダメだったら稽古場の端に僕が座って“反対側の端っこから漫才やってくれる?”と言ったりする。たとえばですけど、この3つをやって気づけない人は時間がかかるんじゃないかなぁ。
同じことを言っても“これはエビアンと言ってフランスの水ですよ”と言ったら大人はすんなり理解できるよね? でもこれを3歳の子に向かって“これはエビアンと言ってフランスの水ですよ”と言っても分かりにくい。
“分かる!? エビアン!! エビじゃない、エビアン!! フランス人が飲む水なんだよ”と言うと、3歳児には伝わるじゃないですか。
簡単に言ってしまうと、そういった発想の切り替えができないとダメなんですよ。これが伝えるということ。伝えるときに笑って伝わるほうがいいよね。分かりにくい子もいるんですけど、だんだん分かりやすくなってきますよね」