■とっかかりは何でも会話力を磨く極意

 東日本大震災の発生直後、津波の被害がいちばん大きかった陸前高田に、丸岡さんは取材で入りました。2週間ほど取材をする中で、自然と涙が流れ出てきたと言います。テレビに映った丸岡さんの涙を見て“ジャーナリストとして失格じゃないですか”と問われたこともたびたびあるそうです。

「その問いには、あなたの角度からの見方は正しいといったんは受け止めます。でも、あの1000年に1度と言われる現場には当然、いままで誰も立ったことがないわけです。そういうときには全触角で感じ取っての取材になる。そこで自分の人間性を一切出さずに取材をするというのは、もう別の次元だと思います。生身の人間が現場に行き、被災者の方から話を聞くとなれば、テレビに映る映らないに関わらず、人間性が出てしまう」

 震災の取材後、丸岡さんは鬱を発症します。その凄絶な体験は、『仕事休んで うつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社刊)で明らかにされています。人の感情の機微に敏感で、顔色を読むことに長けた“ひとたらし”であるがゆえに、人のつらさや悲しみにも大きく影響を受けてしまう部分があったのではないでしょうか。

「そうですね。『ひとたらし』と『仕事休んで~』が表裏一体という見方はできると思います。鬱になったから見えたものもある。鬱の本を出した後でないと、この本も書けなかったと思います。自分を俯瞰で見て、弱い部分もすべてひっくるめたうえで『ひとたらし』というタイトルの本が出せた気がします」

 丸岡さんが取材していた陸前高田の被災者のご家族は、鬱で休職したことを知ると、心配して寄せ書きを送ってくれたそうです。

「自分の大変さを脇において、私のことを心配してくれている被災者の方がいるというのは、本当に勇気づけられました」

 人とのコミュニケーションに悩んでいる人、自分の考えを思うように伝えられない人にこの本を読んでほしいと丸岡さんは言います。

「会話のとっかかりは何でもいいんです。エレベーターの中で一緒になった人に挨拶する。スーパーのレジで雑談をする。相手にチャンネルを合わせて話して、話題を転がしていく。普段の会話力を鍛えれば、相手との関係を見極めることができるようになりますよ」

取材・文/ガンガーラ田津美

撮影/竹内摩耶

<著者プロフィール>

まるおか・いずみ 1971年、徳島県生まれ。1994年、北海道文化放送にアナウンサーとして入社。 '01年、日本テレビ報道局中途入社、報道記者として活躍。 その後、『情報ライブ ミヤネ屋』のニュースコーナー担当。 '10年、ミヤネ屋を卒業、『news every.』のキャスターに。'13年、ホリプロ移籍。フリーキャスター、エッセイストとして活躍中。