「今日は頑張ろうねー。婚活は自分に入れるカツ!」
これまで成立させたカップルはなんと1000組以上! “婚活界の松岡修造”と異名をとる婚活コーディネーターの荒木直美さん(49)が声を張り上げると、色とりどりの浴衣を着た女性たちから笑い声がもれた。
熊本市内の水前寺成趣園で8月18日に開かれた「縁むすびゆかたパーティー」。参加者は32歳~50歳の男性15名、28歳~40代半ばの女性17名。男性陣は緊張しているのか表情が硬い。女性は彼氏がいないのが不思議なほど綺麗(きれい)な人が多い。
園内にある出水(いずみ)神社で縁結び祈禱(きとう)を受けた後、閑静な庭園の一角に移動。婚活パーティーは、定番の“お見合い回転寿司”からスタートした。対面の男女が2分半で自己紹介する。終わると男性が隣の席に移動して参加者全員と話す仕組みだ。
次は気になる相手にアタックして2人で話すフリータイム。早い者勝ちなのに、開始早々トイレに行き、ゆっくり戻ってきた男性を見つけると荒木さんは叱咤激励(しったげきれい)した。
「もう、今の草食男子たちは呑気(のんき)なんだから。職員室に呼び出しものだよ! 早く女子のところに行ってね」
10分たつと“シャッフルタイム”とアナウンスする。1時間しかないフリータイムで、多くの相手と話をしてもらうためだ。
今回は女性参加者のほうが多いため、あぶれてしまう女性がいる。女性同士で話している2人に荒木さんが声をかけると、すでにあきらめムード……。
「こういうの合わないかな」
「もう結論出しているの? 早すぎるわー。必殺技を教えておくね。次に私がシャッフルタイムと言ったときがチャンスだから、気になる相手がいたら近寄って“お話いいですか”。それだけ。大縄跳びと一緒で、入れればスーッといくから」
「アハハハ」
笑わせて励ますと女性たちの顔が明るくなった。
荒木さんは参加者の間を歩いて、次々と声をかけていく。まるで旧知の間柄のように、参加者が素直に話を聞くのには理由がある。パーティーが始まる前、男女に分かれて30分ずつ荒木さんは熱いレクチャーを授けていたのだ。
「男性は婚活の現場に来させるのが難しい。だから、まず“よく来たね”と褒めて士気を高めて、階段を上らせます。女性は逆に理想がすごく高いので、現実を伝えて、階段を下りてきてもらう。そうすると、ちょうどいいところで始められるんです」
熊本など地方都市ではどこも同じ傾向だというが、独身男性の数が少ない。進学や就職で地元を離れ、戻らない人も多いからだ。女性は会社員、公務員、保育士など職業はさまざまだが、職場でもプライベートでも出会いがないと嘆く。今回の浴衣パーティーでも女性は3倍近い応募があり、抽選だった。
婚活に来る男性はまじめで照れ屋が多いため、男性向けのレクチャーは笑顔の作り方からスタート。「ウイスキー」と言って口角を上げる練習をする。荒木さんは「女性の前で声に出しちゃダメよ。アルコール依存症と間違えられるから」と笑わせることも忘れない。
緊張がほどけたところで、長年の経験から培った「婚活のトリセツ」6か条に沿い、声のかけ方や心得などを具体的に説明。「女性をひとりにしないで」と何度も念を押す。
女性には婚活市場の厳しさを再認識してもらい、細かな注意をする。友達と一緒に参加している女性も多いので、女性同士で固まっていると男性が話しかけられない。「寂しくてもひとりになって」と、こちらにも釘を刺す。
自己紹介のときは仕事や趣味をなるべく具体的に。相手が共通点を見いだして食いつきやすいように、エサをまけと檄(げき)を飛ばした。
荒木さんのレクチャーを聞いて、自営業の男性(45)は目から鱗(うろこ)が落ちたという。
「婚活では、女性のところに1度行ってダメだと思ったら、すぐ次に行っていいとか、2人の女性と同時進行でもいいと聞いて、あー、なるほどねーと。ダメなんですよ。ホンマ、ガツガツ行けなくて(笑)」
事務職の女性(29)はお見合い回転寿司で荒木さんのアドバイスが役立ったという。
「男性が席替えする間しか相手の印象を書く時間がないけん、“考えるな、感じろ!”を実行しました。マジ大事だと思います」
フリータイムが終わると意中の相手の番号を2人まで書いて提出。フリータイム終了5分前に“最後のお願いタイム”を設け、荒木さんがダメ押しをする。
「“あなたの番号を書きます”“また会いたいです”。男子も女子も、自分の気持ちを正直に伝えてください。言わんとわからんよー。“明日やろうはバカ野郎”。明日になったら、もう2度と会えないメンバーですよ」
夕闇が迫るなか、カップルになった男女を発表。この日は最大15組のところ9組が誕生。婚活パーティーでのカップル成立率は平均2割と言われるなか、6割は驚異的だ。