絵本編集者・末盛千枝子さんの証言
'70年ごろ、画家・堀史子さんのご自宅で美智子さまにご挨拶したことが初めての出会いでした。それから20年を経て、詩人のまど・みちおさんの動物に関する20編の詩だけを集めた詩集『THE ANIMALS「どうぶつたち」』を当時、私が始めたばかりの出版社『すえもりブックス』で制作させていただけることに。
ANIMALSの詩は日本語と英語が対になっている構成で、皇后さまの学校の後輩である国際児童図書評議会(IBBY)元会長の島多代さんが英訳部分を美智子さまに依頼されたのです。
表紙の見本を赤坂御所にお持ちしたときがお会いしてから2回目で、20年ぶりだったのにもかかわらず、美智子さまは「あのときお会いしましたね」と言ってくださり、とても幸せな気持ちになったことを覚えています。
'98年に「子どもの本を通しての平和」というテーマでインドのニューデリーでのIBBYの世界大会に美智子さまが基調講演をされるはずでした。しかし、大会の数か月前にインドが核実験を行ったため、現地での出席は直前で中止となり、ビデオでのご出演となったのです。
美智子さまは、4年間も熱心に講演することを希望していた現地の方々などにご迷惑をかける申し訳なさで、大変嘆かれていたと思います。私がお会いした前日に、侍従長が出席の見送りを伝えたそうですが、納得していただくのがずいぶん大変だったようです。
講演の原稿を美智子さまご本人からお聞かせいただくと、実に見事な構成で、子ども時代の読書体験から、ご自分のお考えや思いを見事にことばで紡がれていました。この素晴らしい内容が後に『橋をかける』という名著になったのです。
東日本大震災で被災した子どもたちに絵本を届ける『3・11 絵本プロジェクトいわて』では、美智子さまから19冊の絵本を寄贈していただいたうえに、盛岡で行った原画展覧を行う会のために、貴重な絵本の原画もお貸しいただきました。
「ボランティアをしている人たちに、ホッとしていただきたいので、私が持っている原画を飾ってください」とおっしゃってくださいました。美智子さまは絵本だけでなく、本全般に造詣が深く、『イノック・アーデン』や『ピエールとリュース』もお好きで、山本周五郎の名前もお聞きしたことがあります。
'00年ごろ、当時放送されていたTBS系のドラマ『ビューティフルライフ』のお話になった際、私が「木村拓哉と常盤貴子という俳優がいて……」と説明しようとすると「とてもいいのですってね。来週は急展開があるらしいの」とおっしゃられた際は、大変驚きました(笑)。おそらく紀宮さまからお聞きになったのでしょうが、実際にご覧になったのかもしれませんね。
周囲は、民間から皇室に入られたと簡単に言うけれど、当時の皇室関係の方々はみなさん旧華族だったと思われるので心細く、そうとう大変な思いをされてこられたのだと思います。
あるとき、「最初はどんなに難しかったとしても、最後にはとてもいい関係になれた」とおっしゃっていて、とても印象に残っています。ANIMALSを作る過程で両陛下とご一緒した際、お互いに対して“自分だけは味方”という雰囲気がおありで、きっとご一緒に苦労されながら、人生を歩まれてきたのだと感じましたね。