健康診断や人間ドックで悪い数値が出てしまったら……。でもそれはどんな理由によって何が悪いのか。そもそも『基準値』とはなんなのか。新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦氏に話を聞いた。
『基準値』がかかえる問題
「基準値とは何かというと、例えば“健康”な男女を大勢集めて、基準値の調査としてある検査をしたとします。年代や性別で分けたとしても被験者の中には、必ず飛び抜けた数値となる人が出てきます。異常に数値が高かったり、その逆も。
健康で病気ではないけど体質的に異常というケースです。そのような数値で上2・5%、下2・5%の人をカットする。その合計が5%。基準値とは、“健康と思われる人の検査値の上下計5%を除外した95%が入る値”です」(岡田医師、以下同)
この算出法は国際的に定められたもので、海外も同様。
「本人も自覚症状などはない、検査をしても異常がない、重大な病歴もない、特別な薬も飲んでいないなど条件を定めて残った、“一応健康と思われる集団”から95%の範囲を求めます」
しかし、限定した“健康らしい”集団にも問題が。
「健康診断では、コレステロールや血圧といった、高い数値を放っておくと“将来”病気になる可能性が高いという検査が多い。このような検査であれば、その人たちの将来の“健康状態”も調査するべきなのです」
追跡して数値を追うことで、より正しい基準がわかる。
「追跡調査で、当時のこの値は正しかった、もしくは修正が必要だったと調整できる。それで初めて信頼できる基準となる。いくつかの検査はこのような調査をもとに基準値が求められています」
極端に言うと“今”という一点だけを測定した基準による検査を受けた人たちは“その時点”では基準内で健康だったかもしれないが、もしかしたら10年後多くの人が不調かもしれない……。
「ただ、その調査は簡単ではない。時間、お金、手間、高度な知識が必要となります。ここまで調査して定められた基準値は、実はほとんどありません。未来のことは考慮せず、現在の数値のみで基準値が定義されています」