食品が原因で「がん体質」になってしまうことがある。予防のためにもがん細胞が好む食品を知り、食べる量を減らすことが大事だ。有効率6割強の、がんの食事療法を長年提唱している専門医が解説。
がんの要因の3割は食事だった
現在、日本人の2人に1人がなる「がん」。その発生に、毎日の食事習慣が深く関わっていることをご存じだろうか。
「“がん細胞の好む魔の食品”をとり続けていれば、がんになるリスクが高まります」と話すのは、がん患者の診察と食事療法に定評のある消化器外科が専門の済陽高穂(わたようたかほ)先生。
がんになりやすい体質の人やがんを再発しやすい人は、遺伝的な要素もあるが、毎日の食事習慣が、がんの発症原因の3割を占めるという研究(※1)が1996年に発表された。
欧米では医科栄養学に基づき、ここ20年ほど食事を重視するがん対策がとられるようになった。その結果、1971年以降アメリカ人のがん死亡率は低下している。(※2)
「家庭での食事習慣は親から子へ伝わることが多いため、がん家系の人はがんになりやすい食事をしている可能性があります。家族や自分がよく食べる食品の中には“がん細胞の好む魔の食品”があるかもしれません。その食品を知り、食べる量を減らすだけで、がん予防になります」(済陽先生、以下同)
赤身肉や加工肉、アルコールに注意する
済陽先生が患者に指導し、自身も避ける「がんが好む食品」として代表的なものを14点ご紹介する。
「まずは豚や牛、羊などの赤身肉。これらの動物性食品の摂取が多いと大腸がんや乳がん、前立腺がんのリスクが高くなります。さらに赤身肉は鉄分が多くて酸化しやすい。活性酸素も発がんの要因になるので、がん患者はとらないほうがいいです」
赤身肉を避ける理由は大きく2つ。人間は食品からタンパク質を摂取すると、肝臓でアミノ酸に分解し、必要なタンパク質に作り替える。しかし、赤身肉の動物性タンパク質は分解しにくいため、多食すると代謝に負担がかかり、がんのリスクが増大する。
「牛の赤身肉を毎日食べる人は月1回程度しか食べない人と比べ、がんになる危険度が約2・5倍高まるという報告もあります。鶏肉に替えたり、食べる頻度を減らしてみてはいかがでしょうか」
また、四足歩行動物の動物性脂肪(飽和脂肪酸)のとりすぎも、血液中にLDLコレステロールを増やし、がんのリスクを高める要因になる。
「このLDLコレステロールが酸化すると、毒性をもって動脈硬化を進める『酸化LDL』に変わるのですが、免疫細胞の『マクロファージ』にはこの酸化LDLを処理しようとする性質があります。飽和脂肪酸をとりすぎると、身体を守る免疫細胞が酸化LDLの処理に過度に使われ、がん細胞が発生しやすくなるのです」
ほかにアルコールも魔の食品。飲酒量が多い人ほど食道がん、肝臓がん、咽頭がん、大腸がん、乳がんなどのリスクが高くなる。ビール1杯で顔が赤くなる人は要注意。
「少量のお酒で顔が赤くなる体質の人は、酒量を多く飲めても、肝臓の代謝が悪く解毒力が弱まっています。解毒ができないと、毒素が代謝されないので、がんになるリスクは高くなります」
塩分の多い食事ががんの引き金に
済陽先生が特に日本人に気をつけてほしいと語るのが、塩分のとりすぎだ。
「高塩分の食事は、胃がんを引き起こします。塩分を過剰に摂取すると、胃の粘膜が荒れます。そこに胃がんの原因となるピロリ菌が増殖して、胃がんのリスクが高まるのです。日本人の塩分摂取量は1日平均9〜10gと、海外と比べても多い。できれば1日の摂取量が6g前後になるよう、減塩を心がけてほしいですね」
また、過剰な塩分摂取は細胞のミネラルバランスを崩してしまう。塩の主要な成分であるナトリウムの濃度が高まり、バランスが崩れると細胞の代謝の異常が起きやすくなり、すべてのがんのリスクが高まることがわかっている。
ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工肉は豚などの赤身肉が原料。さらにがんのリスクを高める塩分や食品添加物を多く含むので、ダブルで避けるべきと済陽先生は話す。
食事の塩分は、気をつけないでいると、知らず知らずのうちに摂取量が増えてしまう。例えば外食や惣菜、弁当は塩分が多いので、できるだけ減らす。
「市販のカレールーやドレッシング、冬場の鍋物によく使われるポン酢も実は塩分が多いので、食品表示を確認し、とる量を配慮するようにしてください」