目次
Page 1
ー 『なぜ君は総理大臣になれないのか』が異例のロングヒット
Page 2
ー 『なぜ君』はこうして誕生した
Page 3
ー 取材者から当事者に変わった『香川1区』
Page 4
ー 「普通」に憧れた少年がテレビの世界へ
Page 5
ー 取材の基本は「右手に花束、左手にナイフ」
Page 6
ー もだえや悩みを隠さない大島作品の魅力

 

 親譲りの鋭い眼光、ピンと伸びた背筋。それとは裏腹に柔らかでおだやかな物腰……。映画界の巨匠を父に持ち、『情熱大陸』をはじめ数々の映像作品を手がけてきた大島新さん。今なおロングヒットを続ける映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』は、政治に関心のない人までも惹きつけ、ドキュメンタリーの威力を見せつけている。何を思い、時に心惑い、君は映画を撮るようになったのか。その軌跡をたどる。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』が異例のロングヒット

 暮れの押し迫る2022年12月下旬。東京都中野区にあるミニシアター『ポレポレ東中野』は平日夜にもかかわらず盛況だった。客席は多くの若い観客で埋まっていた。

 この日行われたのは、映画監督・大島新(あらた)さんの著書『ドキュメンタリーの舞台裏』の出版を記念した特別上映のイベント。大島さんをはじめ、国内の名だたるドキュメンタリー監督の代表作が日替わりで公開され、トークショーも開かれたのだ。

 イベントでも上映された『なぜ君は総理大臣になれないのか』(以下、『なぜ君』)は、異例のロングヒットを続ける政治ドキュメンタリーである。

 立憲民主党の小川淳也氏が官僚の職を辞して衆院選に初出馬した'03年以来、17年もの軌跡を追っている。そこには、理想を追い求め政治家を志したものの、政治の党利党略に翻弄(ほんろう)される、1人の愚直な男の姿があった。

『なぜ君』のヒット以来、「社会や政治に関するコメントを求められる機会が増えた」と大島さん 撮影/廣瀬靖士
『なぜ君』のヒット以来、「社会や政治に関するコメントを求められる機会が増えた」と大島さん 撮影/廣瀬靖士

『なぜ君』はSNSで評判となり、小泉今日子をはじめとする有名人も応援メッセージを送り話題を集めた。

 通常、こうした独立系のドキュメンタリー映画は、専門映画館で公開されるのみだが、『なぜ君』の公開館数は85館を超え、観客動員数3万5000人を突破する異例のヒットを記録している。

 この作品を監督したのが、大島さんだ。フジテレビ社員としてキャリアをスタートさせたのち、4年半で独立。ディレクターとして、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)、『情熱大陸』(TBS系)など数多くのドキュメンタリー番組の制作を担当してきた。

 その傍ら制作会社ネツゲンを設立し、映画にも進出。監督として作品を手がけるだけでなく、『ぼけますから、よろしくお願いします。』などの話題作もプロデュースしている。

 実は大島さんは、世界的に有名な映画監督・大島渚さんを父に、女優の小山明子さんを母に持つ。それでいて、いやだからこそ、少年時代は「普通の人」に憧れた。

 そんな大島さんが、どうして父と同じ世界に足を踏み入れ、政治を題材にした映画を手がけるようになったのか。『なぜ君』はどのようにして生まれたのか。詳しくひも解いていこう。