また、最近では寿命についての新しい概念として「健康寿命」という考え方が注目されている。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」。要は介護を受けたり、寝たきりになったりせず、元気に自立して生活を送れる期間のことだ。たとえ長生きできても、晩年ずっと寝たきりという生活を我々は望んでおらず、その点で健康寿命には「実質的な寿命」という意味合いもある。
この健康寿命でも23区の傾向は基本的に西高東低。男女ともにトップは山の手区の文京区で、最下位は男性が台東区で女性が足立区と、やはり下町区が下位に沈んでいる。
こうした差が出てしまう要因はいろいろあるが、大きいのはやはり「食生活」だ。下町区には非正規労働者(契約社員・派遣労働者・パートタイマー)や町工場で働く職人などが多いが、彼らは日々、仕事と生活に追われ、食事はインスタント食品やファストフード、出来合いの弁当などに頼ることも多く、どうしてもおざなりになる。
しかも不安定な雇用状況と低収入によるストレスから飲酒と喫煙をやめられない人も多く、彼らは生活習慣病予備軍として、やがて糖尿病などを発症していく。病気になれば医療費がかかることになり、それがまた生活を圧迫する。そのため病院に行かないケースも多く、放っておくうちに重病化して仕事ができなくなるという悪循環に陥る。こうした負のスパイラルは下町区により多く見られるものだ。
さらに、貧困を背景とした食生活の乱れは、子供がいれば、その健康にも悪影響を与えかねない。最近、子供の糖尿病が増加している。子供がかかる糖尿病は2種類あるが、発症数が圧倒的に多いのは主に肥満を要因とする「2型糖尿病」だ。子供の肥満は裕福な家庭よりも貧困家庭に多く、貧困が原因の偏った食習慣や食の配慮不足が子供を太らせていく。貧困は子供の健康を害し、その将来をむしばむ危険も秘めている。
最強セレブ区が持っている裏の顔
一方、高所得者が多い山の手区には、健康を意識した食事を常日頃から心掛けている住民が多い。また、人は暮らしている環境に合わせたライフスタイルをとる傾向があるから、健康意識の高い人が多い地域は、地域ぐるみで健康に気を使うようにもなる。貧困地域の負のスパイラルとは正反対の好循環である。
ただ、当たり前の話だが高所得者が多い区だからといって、健康な住民ばかりいるわけではない。たとえば23区随一のセレブ区である港区を例にとってみよう。
港区には超が付く高所得者の影に隠れるかのように低所得者も暮らしている。実際、古くからの港区民には資産家など富裕層もいるにはいるが、年収500万円未満で中流層にさえ届かない人も大勢いるのだ。
ブルジョワなイメージの港区だけに、こうした格差の実態はけっこうインパクトが強い。だが、さらに衝撃的な事実は、大きな格差が存在するとはいえ、23区で最も区民中の高所得者(年収1000万円以上)割合が高いにもかかわらず、健康寿命が短いことである。
港区の健康寿命は、男性こそ80.8歳で23区中10位だが、女性は81.97歳で22位。女性の健康寿命の20位以下には墨田区、台東区、足立区と、下町区がズラリと並ぶ中、港区の存在はひと際目立っている。でもなぜこんなにも港区の女性は健康寿命が短いのか?