脳を活性化すれば発症しないことも
では、認知症を予防する生活とは何か? 田平客員教授がレクチャーする。
「同じことをしていても、脳はあまり活性化しません。人間の脳の神経細胞は、全体の15%ほどしか使われていないんです。使われていない細胞、眠っている脳をうまく使うには、新しいことに挑戦することが大切なんです」
と話し、脳を活性化させればADの発症を抑えることができると続ける。
「修道女の脳を死後に調べた研究では、脳にはAD特有の症状があるにもかかわらず生活をするうえでは一切ADの症状が出ていなかったという報告があります。聖書を読み、文章を書き、賛美歌を歌う。そういった生活が脳を活性化していたと考えられます」
さらに食生活も重要で、
「ウコンに含まれるクルクミンは『アミロイドβ』の悪さを抑える成分として注目されています。漬物に含まれるフェルラ酸、卵の黄身や大豆に含まれるレシチンも効果があるとされています。毎日、味噌汁を飲むのもいいですね」
と、田平客員教授。
さらに徳田教授が訴えるのは、いい睡眠をとること。
「ワシントン大学の研究などでは、寝ている間に『アミロイドβ』が掃除されていることがわかっています。いい睡眠が大切ということですね。また2011年に発表された論文では、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病のすべてを治療した場合、ADの危険度を40%も減少できるとされています」
規則正しく、健康的な生活を行うことで、高い確率で発症を抑えることができるAD。だが、その患者数は、東京オリンピック・パラリンピックが終わった5年後の2025年には700万人を超えると、厚生労働省は推計する。
どうにか発症を抑えることは、総人口の21%以上が65歳以上である『超高齢化社会』の日本にとって、すぐに対処するべき国家的課題だ。
同省認知症施策推進室は、「検査方法だけでなく、治療薬など、新しい技術が出てこないのが、この領域のつらいところです」と受け止め、次のような取り組みを明かす。
「本年度から本人ミーティングという、当事者だけ集まってその要望を聞く取り組みを行っていく予定です。研究開発だけでなく、すでに発症された方も含め、残存能力を生かし社会の役割を担っていけるような社会づくりを進める施策にも力を入れていきます」
徳田教授らの研究は今後、大規模な臨床試験を行い、その有効性について確認していくという。介護大国ニッポンの問題解決に、徳田教授らの研究成果が期待される。