ASDでも人を幸せにしたくなる
早期に発見されなかった発達障害であっても、より生きやすい状況を作ることはもちろん可能。ただし、本人の意志がどれだけ固いかがカギとなる。
「発達障害のある本人が、障害を改善していきたい、人生を楽に生きたいと強く思わない限り、うまくいくことはないんです。正直、発達障害の人の中には“俺はどうせ、こんなんだからさ”と開き直り、何もしない人もいます。すると、コミュニケーションがうまくいかなくなり、本人よりも周りが壊れてしまうケースも多々あるんです」
夫婦の片方が発達障害で、何も対策をとらなかったら相手が壊れてしまったり、離婚にいたったりという話も、よくあるそう。
「パートナーが発達障害の場合、問題が起こった瞬間に指摘してあげなければいけないでしょうね。周囲に多大な迷惑をかけていることに本人が気づけないですから。定型のパートナーから学べることはたくさんあります。私自身、長くパートナーと付き合うことで、他人にも感情があると気づくことができました」
発達障害のある側にも、とるべき態度がある。
「吉濱ツトムさんという発達障害に関しての著作の多い方がいらっしゃいますが、その方は当事者向けのマニュアルも作っているんですね。その中に“パートナーは一生、大事にしなければいけません。自分を好きな人しか、問題を指摘してくれないのだから。言われたことは受け入れましょう”とあるんです。これは本当に真理。
特にASDは、パートナーを粗末にしがちですからね」
沖田さんは自身の経験から、発達障害の人には「旅行がおすすめ」だと話す。
「私、共感性というものがいちばんわからないんですね。以前は友達と旅行に行っても“なんでこの人はさっきお花の写真撮ったのに、また撮るんだろう”とか“美味しいって言ったものを、なぜ私に食べさせるんだろう”と不思議だったんです。でも、最近わかったんですが、それが旅行なんですよね。単に別の場所に行くのが旅行じゃないんですよね」
今まで、文字としての「美味しいね」は知っていても、心の底から「美味しいね」と言い合う感覚は持っていなかったそう。
「“美味しいね”には、相手を思いやる気遣いとか感情が詰まっているんですよね。それを発見したときの喜びは忘れられません。発達障害の人は旅行に行って、いろんな人間を見て、いいことをまねしてほしい。
もちろん、自分ひとりでも楽しいんですけど、好き同士、わかり合う感情はASDでも持てます。さらに、この人をもっと幸せにしたいという思いが持てれば、人生はより豊かになっていくでしょう」
いまだに毎日やらかし、漫画のネタには困らないと笑う沖田さんだが、その「やらかし体験」は着実に糧となっている。
<プロフィール>
沖田×華さん◎漫画家。小学校4年生で医師よりLD、ADHDの診断を受け、その後、ASDも判明。看護師、風俗嬢を経て2008年に漫画家デビュー。現在『毎日やらかしてます。』シリーズ(ぶんか社)、『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(講談社)など多数の作品を連載中!