視聴率30%の番組を作ろう!
そんな萩本が出会ったライフワークといえる番組、そこに到達するまでを記録したドキュメンタリー映画がある。2017年11月公開の映画『We Love Television?』だ。
これは、日本テレビの名物プロデューサー・土屋敏男氏が初監督を務める作品。アナログ放送から完全地上デジタル放送への切り替え期である2011年初頭から萩本の番組制作に密着したドキュメンタリーだ。
土屋氏は、『電波少年』シリーズなど数々の伝説の人気番組を手がけたあの「Tプロデューサー」その人。映画誕生のきっかけを土屋氏はこう語る。
「2010年の是枝裕和さんが演出したフジテレビの番組『悪いのはみんな萩本欽一である』に、僕は証言者として出演しました。その控室で欽ちゃんに“土屋ちゃん、僕、視聴率30%取れる企画持ってるんだけどやる?”と言われたんですよ。まだまだ欽ちゃんは終わっていなかった。そこで、アナログ放送の最後に、日本のテレビバラエティーの元祖である欽ちゃんの番組を作ろうと思い立った。それがそもそもだったのです」
’11年1月31日深夜、土屋氏は萩本の仕事場で待ち伏せし、「欽ちゃん、30%の番組を作りましょう」と直撃。映画は、そこから始まる。
萩本の仕事場に置かれたカメラで萩本が自撮りした映像、番組のキャストが決まっていく過程、放送作家との打ち合わせ、稽古シーンなどのメーキング映像が続き、そしていよいよ収録本番を迎える。
「その年の3月10日に二郎さんが亡くなり、その翌日には東日本大震災が起こった。僕はずっと欽ちゃんに伴走する形で生の欽ちゃんを撮り続けていったのです」
実際の番組タイトルも、『欽ちゃん!30%番組をもう一度作りましょう!(仮)』。本番収録は萩本の目指す軽演劇のスタイル。現場は「何が起こるかわからない」緊張感に包まれていた。
結局、番組の視聴率は8%台だったが、萩本の挑戦は「大人の笑い」を作り出すことに成功していた。
それにしても、テレビのメーキングがなぜ映画になったのか。
「番組がオンエアされた翌日視聴率が出た。その数字を見た欽ちゃんが何と言うか、それこそがこの企画のオチじゃないですか。だから、それを撮らなきゃいけないと思った。また、番組では、女優の田中美佐子さんが出演の予定でしたが、体調不良で本番は降板。それも映像には残されていました。
さらに、去年('16年)、欽ちゃんに会ったら、“オレは諦めてないよ。もう1本やる。それで30%目指すよ”と言われたのです。僕はそこに『鬼』を見た。僕はテレビや映画の神様に作らされているような気がしました。そして、’16年に映画にすることが決まったのです」
映画には、BSプレミアムの番組収録の途中で倒れ、救急車で運ばれる萩本の姿も映し出されていた。それは土屋氏のスマホで撮影された映像だった。
「あのとき、僕はたまたま収録の見学に行ってました。そしたら、欽ちゃんが倒れたんで付き添ったのです」
幸いにも倒れた原因は脱水症状だったために大事には至らなかった。
「救急車の中で、この人はテレビの笑いに命をかけているとつくづく思いました。人の生き方として見習うべきことが、この人にはあると確信しましたね」