貧しい国に生まれた人がみんな不幸ではない。財産を持っている人が幸せとは限らない。貧乏でも食べ物を分かち合い、明るく生きている人たちはたくさんいる。わたしは食べるものにも困ってもいないのに、そのありがたみもわからずに、人の持ち物と比較して、自分を嘆いている。なんて、バカなのか。

「今の日本人は、食べていくことはできる。だから、日本人に生まれただけで幸せなのよ。日本に生まれる確率って、考えてみたことある? 天文学的確率よ」

 すでに十分に幸せであることに気づけ、と言われたのだと思うが、当時のわたしは、「誰か紹介してくれないかしら」とやましい気持ちを心の底に持っていたので、素直に受け止めることができなかった。あなたは家族もお金も持っているから……。

 幸せは条件ではなく、自分の心が決めるものだと心からわかるようになったのは、恥ずかしながら、つい最近のことである。いえ、本当のことを言うと、今でも、お金があったらもっと幸せかもと、通帳を見て思うことがある。なんで、もっと若い時から個人年金に加入しておかなかったのか。この年まで大きな病気もせず、また、明日のご飯に困っているわけでもないのに、企業年金で悠々自適の同級生を見ていると、ついつい。

 ああ、まだまだ、わたしは修行が足りないですよね。座禅に通っていたことがあるのに、何も学んでいないわたしだ。

顔に「心が不幸です」と書いてあるシングル女性が多い

 わたしが主宰しているNPO法人SSSネットワークには、定年を迎えたシングル女性が多く参加している。日本の男女不平等の組織の中で定年まで勤め上げたというのは、並大抵のことではないはずだ。

 そんな自立した彼女たちにとり、誰にも頼らずに自力で生計を立ててきたことは誇りのはずなので幸せでいいと思うが、幸せそうに見えない人が多いのには、正直驚きを隠せない。

 女性は男性と違い堅実だ。シングル女性の多くが老後のために、家、貯蓄などせっせと準備しているのが普通だ。一方、シングル男性は、家や貯金にこだわらないようで、病気で職を失いホームレスになる人もいる。女性にホームレスが少ないのは、家に執着する性格のせいのような気がしてならない。総務省統計局の「平成26年全国消費実態調査」によれば、単身世帯の持家率は男性50.9%、女性67.9%と、女性のほうが男性を17ポイントも上回っていることからもわかる。

 それなのに、彼女たちは、健康を失ったときに自分の世話をしてくれる人がいないことに、大いなる不安を感じているのだ。こんな言い方はしたらいけないが、顔に「心が不幸です」と書いてある人が多い。

 口の悪いわたしは、「あなたって不安が趣味なの?」と言うのだが、最近は、冗談も通じないほど不安の渦が大きくなっているのを感じる。老いと共に不安は増大するようだ。

 先ほどの幸せの条件の話ではないが、お金があっても幸せになれない実例を日々、見せつけられ、とてもいい勉強になっている。

 お金は確かに大事だし、ないよりはあったほうがいいと思う。しかし、それにとらわれすぎると、幸せから遠ざかることになりかねないのも事実だ。