子どもは案外、強いものです
患者である妻は子どもに伝えたいと思っていても、子どもがかわいそうだと夫が許さなかったり、最期まで子どもに弱った姿を見せたくないと本人が伝えることを拒否したり。結局、子どもに知らせないケースも多いという。
大沢さんは、元気なうちから少しずつ子どもに伝えていくことをすすめている。
「子どもは、ちゃんとした情報を知ったほうが安心します。私たちは、親が子どもにがんをどのように伝えたらいいのか、発達段階別に冊子を作り、患者さんたちに配布しました。
でも、無理に子どもに話す必要はありません。がんであることを受け止めるだけでも、患者にとっては大変なことなのですから」
例えば、小さい子どもに親ががんであることを伝えると、秘密にできない子どものせいで、ママ友や近所の人たちに伝わってしまうことがあるかもしれない。
ただ、子どもがバラしてくれたおかげで、周囲からサポートが受けられるようになったというシングルマザーの例もある。
「これまでに出会った患者さんや子どもたちから、いろいろなことを教えられました。子どもは案外強いものです。私自身も夫を失い、1度は死にたいと思いながら、立ち直った経験がある。どんなにつらいことも、人はいつか乗り越えられるものなのです」
大沢さんは、子どもの力を信じているからこそ、家族の輪から子どもが排除されないことを願っている。
大沢かおりさん ◎Hope Tree代表 東京共済病院の医療ソーシャルワーカー。乳がんのサバイバーであり、夫を自殺で失った遺族でもある。2008年に『Hope Tree』を設立し、がん患者の親と子どもを支える活動を始めた。