精神医療の現場では、どんな治療がされているのか? 都内の精神科クリニックに勤務する男性医師は「カウンセリングと投薬治療が中心。そのほか、精神療法を受けたり、(共通の悩みや問題を抱える当事者が集まり、分かち合う)自助グループに参加する体制をとっています」と言う。

 どんな症状が出て、何に困っているのかを問診し、必要に応じて向精神薬などを処方するのが一般的だ。

2人の患者の実体験を紹介

 例をあげよう。

 関東地方に住む内田真美子さん(仮名=40代)は、10数年前から精神科クリニックに通っている。

「眠れなくなったり、イライラが続き、友人からクリニックを紹介されました」

 当初から、抗うつ剤などの向精神薬が処方されていたが、診断名は気にしていなかった。しかし、職場を休む都合で診断書をもらったとき、うつ病と知った。

 すぐに改善はせず、自殺を考えたこともあった。医師に状態を話すと、処方される薬が変更された。

「自助グループに参加して、気分が明るくなったこともありました」

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 関西地方に住む上村里奈さん(仮名=30代)は、そううつ病と診断されている。自殺願望が強く、未遂を何度も繰り返した。そのため通院だけでなく時折、入院もしている。

「10代のころから死にたいと思うことがありました。虐待を受けたり、いじめを受けていたことが原因かもしれません。家出を繰り返して、気分転換をしていましたが、働いてひとり暮らしをすると、精神的なバランスがとれず、病院に通うようになりました」

 カウンセラーや相談員に話すと気持ちが安定することもあるが、ひとりになると、どうしても悲観的な考えばかり浮かんでしまう。そのため自殺願望が強まったときに数か月間、入院を繰り返している。

「医師を信頼して、つらいときはきちんと話すようにしています」

 警察庁の統計(速報値)によると、'18年の自殺者数は2万598人で9年連続の減少となった。2万1000人台を下回ったのは実に37年ぶり。ピークの'03年が3万4427人だったことから、約1万4000人も減っている。

「医療や介護、福祉へのアクセスがよくなったほか、自殺の背景にある多重債務や生活困窮、虐待、アルコールの問題に目が向いた面もあると思われます。しかし最近の自殺者の減少は手放しには喜べません。事件性のない死の場合、警察の捜査の範疇ではなく、公衆衛生としての死因究明が不十分です」(竹島氏)

 精神疾患は幅広い概念だ。最近では発達障害や依存症なども注目を集める。医療や保健、福祉の連携や支援体制は必ずしも十分ではない。地域の中でサポート体制の整備が求められる。

(取材・文/渋井哲也)


《PROFILE》
しぶい・てつや ◎ジャーナリスト。自傷、自殺、いじめなど若者の生きづらさをめぐる問題を精力的に取材。『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)ほか著書多数